刀語
□【初恋】
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【初恋】
「なあ、何で人鳥って喰鮫苛めるんだ?」
と、蝙蝠が話の途中、唐突そう言った。
それと同時にその場にいた川獺、白鷺、蜜蜂、蝶々が順々に声を上げる。
「あ、俺もそう思ったー。昨日喰鮫の夕飯にこっそり人参多めに入れてたの見たぞ」
「僕も見ましたよ。前に人鳥くんがじっと喰鮫を見つめてると思ったらいきなり手に持っていた水を喰鮫さんに…『わ、わ、ごめんなさいっ』って言ったましたけどあれは流石にわざとだと思います」
「た見も俺。のるて隠りそっこ刀の鮫喰に前間週一が鳥人」
「地味な嫌がらせだな…」
ニヤニヤと楽しそうに笑う蝙蝠。
気が付くと全員が輪になりまるでおば様方の井戸端会議の様だった。
「きゃはきゃは。アレは絶対何かあったんだぜ。何でだと思う?何でだと思うよ?」
「なーんか楽しそうだな蝙蝠」
「などけいなもでんらか分はち持気」
「やっぱり何か理由があるんですよ。例えば前に喰鮫さんに酷いことされたりとか」
「それはお前だ」
狭い室内に様々な意見が飛び交う。
意味の無い勝手な想像の言い合いに、蝙蝠がよしと立ち上がった。
「じゃあ、全員で人鳥に、何で喰鮫苛めるのか聞きに行くか!」
「マジでかっ!?」
「なよだ題問がかるれ帰てき生ずえありと」
「止めましょうよ蝙蝠さん!何か、何か怖いです!」
「諦めろ蜜蜂、こうなった蝙蝠は止められん」
そんなこんなで、全員場所移動。
ところ変わって屋外。
「わ、わ、ななな何ですか!?」
単独で人鳥がてこてこ移動中に、全員で捕獲。
人気の無いところまでさらに移動。
そして、人鳥の息が整ったところで。
「なあ、何でお前って喰鮫イジメんだ?」
唐突に聞く。
「え、そそそ、そんなことは…」
「いや、そんなことあるだろ」
「てっろし状白」
「いや人鳥くん、あの、とりあえず当たり触り無い所だけでいいですから」
「当たり触り無いって…お前は主婦か」
口々にそう攻め立てられ、人鳥は静かに口を開いた。
「うう、あ、あのあの喰鮫さまには言わないでくださいね…」
「言うわけない」
「いなえ言かてっ」
「何があったんですか?」
「全員やけに食いつきいいなぁ」
そうして、人鳥は重い口を開いた。
「あの、昔僕がまだ『真庭人鳥』じゃなかったころなんですが…」
「ふんふん」
「僕はたまたま真庭の頭領たちが練習する訓練所に、誤って入り込んでしまったことがあるんですが…」
「んーふ」
「そこで僕は着物を着た髪の長いとても綺麗な女の人に出会ったんです」
「それで、どうしたんですか?」
「そ、その女の人は僕にとても優しくしてくれました…それでその日からその女の人の顔が頭から離れなくなって、ドキドキして忘れられなくて…」
「初恋ってやつか」
「それである日僕が『真庭人鳥』としてその女の人に会った場所に行ったんです。そこで頭の中から消えないその顔を見つけました。ですが…」
「きゃはきゃは。それで?」
「その人は何故か男物の忍装束を着ていて、そして僕にこう言ったんです…『おや、貴方が新しい真庭人鳥ですか。ふふ、私は真庭喰鮫といいます。どうぞお見知りおきを』って…」
「う」
「うえ」
「むむう」
「うわぁ…」
「痛い」
それを聞いて全員はうんざりと声を漏らした。
さめざめと話を続ける人鳥。
「もう、それ以来あの顔を見かけるたびに僕は、初めて好きになった人が男の人だったというどうにもやるせない気持ちになって…つい…つい…」
「気持ちは分かるけどな」
「正直何回後ろから蝶々さまみたいに飛び蹴り食らわせようかと思ったことか…」
「よかジマ」
「……容赦ないですね」
「とりあえず体重の掛け方には注意しろよ」
だから、苛めてしまうんです。と、人鳥は言った。
「そういうわけだったんだな」
「はい…こ、この事は内密にお願いしますね…」
と人鳥は逃げるようにその場から立ち去っていった。
そして、その場に残った五人。
「何つーか…」
「ベタだな」
「だタベ」
「ちっ」
「舌打ちって…蜜蜂お前は何を期待してたんだ」
何か聞かなくてもいいもの聞いちゃったな。とでも言いたげな顔で、全員がため息を吐いた。