刀語

□【最近の事情】
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【最近の事情 〜人鳥の場合〜】




「蜜蜂くん…最近僕おかしいんです…」
話は唐突に始まる。
「え、そんな何でそんな分かりきった事を……いやいや、どうしたんですか人鳥くん?吃ってないと誰かわからないですよ」
「うるさい雑魚。あ、あああの…き、聞いてくれるかな?」
「そんな今更吃らないでくださいよ。というか今すごく酷い事言わなかった?」
「い、言ってないよ…?そ、それで僕実は…」
「うわぁ、本当に無かった事にされた…いいですけどね別に…」
うなだれる蜜蜂。
「最近…喰鮫さまを見ていると…ぼ、僕…おかしくて」
「確かにあの人の行動は面白おかしいですけどそんなに気になりますか?」
「いや、そっちのおかしいじゃなくて…」
確かにそうだけど、と、話を続ける。
というか強制的に続けた。
「く、喰鮫さまを見てるとおかしくなって困るんです」
「おかしいって、どうおかしいんです?」
「こう…息が苦しくなって…胸がドキドキして…」
「ふんふん」
「それなのに目でつい追ってしまって、そのままあの長い髪を追いかけて…」
「ふむふむ」
「そのままその髪を引っ張って転ばせたり思いっきり突き飛ばしたり足払いをしかけたり鎖を絡ませたりしてしまうんです…」
「へー」
「それなのに喰鮫さまの髪が抜けたり汚れたり転んで傷が付いたりするとすごく罪悪感で一杯で…ぼ、僕、おかしいんですよ…」
「うーん…」
蜜蜂は腕を組んで真剣に耳を傾ける。
そして笑顔で答えた。
「ぶっちゃけ病気の域ですよね」
「うるさいストーカー」
「ちょっ、また口調が…」
「な、何で僕がびょ…病気なんですか?」
「もう完全に末期ですよ。“恋の病”なんて滅多にかかるものじゃありませんし」
「っ!? こ、こここ恋?」
「恋」
ありえない、と人鳥は呟く。
「僕があんな変態に…恋…ありえないありえないありえない…」
「だからまた口調が…、まぁ僕に言わせれば人鳥くんも十分普通じゃないと思いますけどね。魚組ですし」
「うるさい虫けら。…ぼ、僕が喰鮫さまに………だなんて、そんな…」
「うわぁ虫けら扱い… でもいいんじゃないですか、喰鮫さん好きになっても。僕はいいと思いますよ」
「だ、だって…あの喰鮫さまですよ?…うう、あ、ああ頭が痛いです…」
しゃがみ込んだまま頭を抱える。
それを見た蜜蜂が言う。
「とりあえず、好きなら好きと言うべきですよ。僕たちは忍びですから、もしかしたら明日死ぬかもしれないんです。考えてる時間はありませんよ」
柄にもなく蜜蜂が胸を張る。
「ストーカーに言われたくない。…で、でも…確かにそ、そうですね」
「だから早く言って来ればいいんですよ。応援しますから」
「ちっ、蟷螂さまと口付けすらまともに出来てないくせに偉そうな。う、うん、僕そうするよ。あ、ああありがとう蜜蜂くん」
気弱でヘタレでウドの大木な蜜蜂くんでも相談してよかったよ。と、人鳥は立ち去った。
「だんだん口が悪くなってる気がするなぁ…」

蜜蜂は呟く。


「でも、多分大丈夫でしょう。喰鮫さんもわざと人鳥くんのちょっかいに引っ掛かってるみたいですし、相思相愛、ですね…」


そして羨ましげに消えた背中を見つめていた。





―了―
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