セイギの声が消えるころ

□きずいろ
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一瞬だった。
蒼の光彩が眩しくて、目も閉じれなかった。
きらきら、きらきら。






白いカーテンが太陽を映す。
風が何かを運び、何かを連れていってしまった。
それを追い掛ける気力が、長年孤独を享受し続けた彼に有るはずもなくて。

赤の長髪がさらさらと揺れる。
閉じられた瞳は暫く開くことはないだろう。

クラトスは優しい眼差しで彼を見つめていた。
やっと終わったのだ、彼の、長い長い旅が。
神子として生を受けてから、神子としての命が終わった日。

辛い思いをさせたと思う。
すべてを押し殺して、何も与えられなかった。
愛をひたすらに傾けた弱い子どもに。



溢れたものは涙だと分かっていた。
それを認められないのは彼の弱さであり優しさでもある。

奇跡など起きはしないのだ。
ましてこんな罪人に。
すべてを諦めたわたしに。
神と呼ばれた、独りの少年はもう居ない。
壊したのも紛れもないわたしだから。
終止符をうつ勇気もなかった。
永続させる力もなかった。
何度も彼の赤い髪に触れ、何度も溜め息をついた。

この世界は優しくはない。
異物は生きていけない。
彼も、わたしも。
消え去る運命しか残されていなかった。


最期の我が儘だと、ゼロスは笑った。
もう生きる意味も気力もない。
終わりくらい、最後くらい、愛しい人に終わらせて欲しい。

神子に生まれて、神子を憎んで、だけど神子じゃないと俺は生きていけなかった。
きっとずっと利用されていた方が良かった。





橙の羽が飛散して、崩れ落ちる姿にクラトスは安堵していた。
漸く解放出来た。
終わることがなかったはずの鎖から。
わたしの力の全てで救えた。
そこにわたしは居ないけれど。
彼はまた泣くだろう。
昔の姿のままで、懸命に。
後悔はない。
それが最善であることに間違いはないのだから。










彼はもう目覚めない。
望んだ世界で望んだ自分で生きていくだけ。
蒼の光彩が残した夢を辿りながら。










end

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