セイギの声が消えるころ

□宵の朝
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壊してやろうと思った。
このレプリカの存在意義を。
でも途中からそんなこと出来なくなった。
守ってやりたい、間違いなく、このレプリカを。
俺が居なきゃ駄目なんだろ、馬鹿なレプリカ。

お前はルークじゃない。
ルークはアッシュだ。分かってるくせに。
否定してくれと俺に縋るんだ、可哀想なレプリカ。













「ガイ、何してんだ?」

「ん?ルークか……剣の手入れだよ。
もう使わないとしても、たまには磨かないとな」

宝剣は透き通った蒼を放つ。
布で拭く度に光度を増していく様だった。
長い旅が終わって、心の傷も少しずつ癒えて。
取り残されているのは否めなかった。
それでも悟られない様に、気付かれないように、ゆっくりと育てた思い。

「そっか、その剣はガルディオス家の宝だもんな」

そうだよレプリカ。
お前の馬鹿な親に殺されたんだ。
みんなみんなみんな、もう居ないんだよ。

「綺麗だろ?俺はこの世にこれ以上美しい剣はないと思う」

これ以上に敵討ちに相応しい剣もないだろう。
喉元に突き刺してやりたい、でも、出来ない。
俺はレプリカをまだ守ってやらなきゃいけないから。

それが憎しみをこえた愛情だとか凡人は言うんだろう。
詩人たちが喜びそうな話だ。






……おれのにくしみはそんなにかるくない。
あねうえ、まだ、くるしんでおられるのですか?









「ガイ、ずっと俺の隣に居てくれるよな?」


抱きしめられたぬくもり。
姉上、俺はきっと最低な人間でしょう。
何の偽りも無い愛情を傾けてくれる彼に一欠片も報わないのですから。


「あたりまえだろ?」

重ねられた唇は血の味しかしない。
昔も、今も、これからも。

「俺、怖いんだ……ガイがどっかにいっちゃいそうで」

何処にも行かないよ、レプリカ。
だって、消えるのはきっとお前だから。
それとも一緒に消えようか?
そう言ったらお前は喜ぶんだろうな。

俺の命はそんなに安くないけど。









「馬鹿だな」

俺はきっともっと馬鹿だけど。
まだ守ってやるよ、そう遠くないお前が俺に依存する未来まで。

まだ足りない、だから。

「あいしてるよ」












end

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