セイギの声が消えるころ

□英雄
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「おかえりなさい、クラトス」

もう何百年経ったのだろう。
長い旅を終えて彼は大樹へ帰ってきた。

ロイドもコレットも天寿を全うし、この世界には居ない。

ハーフエルフであるリフィルとジーニアスはただ笑ってクラトスをもてなしてくれた。
決して何も聞かず、引き留めもしない。

ありがたいことだとクラトスは瞳を閉じた。
よぎるのは金髪の少年。
英雄と呼ばれた狂気のハーフエルフ。


「あなたがここに来た理由、わたしは分かってるつもりよ」

「……すまぬな」

謝らなければいけないのはこっちよ、とマーテルは悲しそうに笑い、森を歩く。

美しいところだ。
ここなら、きっと安らかに眠れるだろう。
世界に愛された彼なら尚更のことだ。

「ここよ」

白い墓は手入れが行き届いており、様々な花が周りに咲いている。
刻まれた文字は銀色の光を放っていた。
<真の英雄、此処に眠る>

「これを彫ったのはロイドなの。
素晴らしいでしょう?」

「……そうだな、本当に……」

涙が零れそうだ。
神にさえ寵愛を受けた英雄は、もう二度と輪廻に戻ることはない。
永遠に世界樹に見守られ、眠り続けるだろう。
果たせなかった夢を見ながら。
私が裏切らなければ、ミトスは幸せになれたのだろうか?
問いかけても答えは出ない。



「あの子はまだ、あなたを苦しめているのね」

ミトスが消えてもう何百年も経った。
それなのにクラトスの傷は一向に塞がらない。
裏切った自分に苦しみ、ただ英雄の影を追い続けている。


「いや、私が勝手に思っているだけだ」

正しい道に導けなかった。
ならば一緒に死ねば良かったのだ。
そうすればこんなに苦しむこともなかった。

「……ねえ、」

ミトスがあなたを愛した理由、痛いほど分かる。
きっとその全てを包み込み、痛みを共有しようとする瞳に惹かれたのね。


「ミトスは幸せよ、昔も今も……だってあなたは永遠にあの子を思ってくれるもの」

きっと私より、あなたはミトスを愛してくれている。
だから幸せよ、絶対に。
あの過ちすら包み込んでくれるのだから。


「マーテル、ありがとう」

過去を忘れたいからここに来たのではない。
永久を誓いに来たのだ。

たとえあれが間違いだったとしても、
この世界唯一の英雄ミトスは穢れない。

わたしはそんなお前を誇りに思うと。














end


マーテル率高いな…

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