2

□「悪いのは彼だけ」
1ページ/1ページ







まるで二人の様だ、と笑った電子音。
影は重ならずゆっくりと落ちていく片方。
止められるものなら止めていた、贖罪だと笑ったその腕を引き止めたかった。
彼は融けてもう何も残っていない、その風景に光る涙と。

青色の空、すぐに消える雪。
桜が咲くまで生き残れないと分かっていたはずなのに。
願わずにはいられなかったこの両手と両目。
金色が靡く雪色の季節、彼は命を散らした。



「傷つくジェイドを見るのが好きだ。だから俺は今、本当に幸せ。
さぁ、旦那はこれからどうやって生きていくんだ?」

同じ色の、けれど彼とは違う短髪。
ガイは楽しそうに目を細めてジェイドを見下ろしている。
闇色に染まった瞳はかつて屈託の無い笑顔を見せていた頃のガイを見つけることは出来なかった。

突然だった。ピオニーが倒れ、あらゆる手を尽くしても助けれない。
皆が驚愕の表情をしている時。
その口は歪みそれはそれは美しい弧を描いていた。

気付くのが遅すぎたのだ。
ガイがまだ世界を憎んでいたこと、そしてそれを知っていたピオニーは甘んじて何も教えなかったこと。
笑う二人の姿はとても悲しかった。
許せなかったのはガイでもピオニーでも無い、ただ生きていた自分自身。

空になった玉座。
もう帰らない唯一の皇帝、罪を償いたかったただの人間。

心の底から愛していたのは彼を殺した青年だった。
けれども伝えられなくて、国を担う親友から離れられなくて、ぐるぐると廻っている間に。


「……馬鹿だよ、ほんとに。
もし全てを捨てて俺だけを選んでいたなら俺の異変に気付けただろう。
もし私情を捨てて国を、陛下を選んでいたとしても強がっていた親友を救えただろう。
優柔不断に、馬鹿みたいに二人に優しくしていたから……」


それはまるで歌の様に。
染み渡る心を、涙を、拭う術を誰か教えてくれたなら。
愛してた、でもいつまで経っても俺だけのモノにはなってくれなかった。


愛とは全てを奪うこと。
愛とは全てを捧げること。
俺は復讐を捨ててまで隣に居たのにな。
出来ないのなら初めから近づかなければ良かったのに。
悪いのは誰?






「さて、陛下に毒を盛った逆賊は自首するよ。
ジェイドの前で笑って首を斬られてやる、そうして全部失ってしまえば良い」

俺のモノにならないのなら要らない。
さよならの口づけをして真っ赤に染まり消えてやろう。
ずっと悔めば良い。そうやって老いて死ねば良い。

許せないだろう?大切な親友を殺した人間を。
愛してるなんて言う醜い軽い言葉はもう吐けないんだろ?

規則的に続く足音。
行かせてはいけないのに、愛しているのに。
それなら全て許さなくてはいけないのに。
彼を復讐に駆り立てたのは私で、罰を受けなければいけないのは私なのに。



なのに。
なのに。
この喉は震えない、足は動かない。
捕まれば死罪。情状酌量の余地もない。
助けられるのは私しか居ない、のに。




「やっぱり俺はジェイドが好きだよ。
だから最期まで俺の名前を呼ばないジェイドは嫌い」


振り返るその瞳と表情は親友と重なって一瞬揺らめいて二度と見えなかった。
後ろ姿は二重に見えて手を伸ばしても届かない。















「お前が此処まで優柔不断だとは思わなかったよ」
「俺はジェイドを信じてた」
「人は何時か死ぬ、永遠なんて有り得ない、だから早く決めるべきだった」
「気付いてくれると思ってた」
「俺は死んでもガイラルディアとお前が幸せになれれば良かったんだがな」
「嘘吐き、さよなら」




「お前がそんなんだから、ガイラルディアは貰っていくよ」
「陛下は俺だけを愛してくれるから」

























気付いたときには安らかな表情で死んだ青年と、彼のものでは無い長い金糸。


嗚呼、そう言うことだったのかと。
ジェイドは漸く理解し、けれどももう全ては終わった後だった。


























end




ジェイガイのようなピオガイのような…?

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ