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□未来迷子
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何度も同じ夢を見ている。
鷲色の髪が散って地に伏して息をしなくなる。
その度に思い、白くなった手を強く握ってみたり御伽話のお姫様を起こす様にキスをしてみたり。

変わらない結末を、彼は見続けている。
運命、宿命、どんな言葉であっても構わないけれど、突き付けられているのは一つだけ。

……また助けられなかった……。
「また繰り返すのか?」
「当たり前だろ」













白いシーツにゼロスは顔を埋めていた。
神子と呼ばれる少年は透明な粒を絶え間なく流し続けている。

また同じだ。

俺はこの世界の結末を知っている。
この世界の他にもう一つ世界があって、衰退するだけ。
でもそこにはロイドが居る。長い旅を続けて世界を統合する英雄が。

しかしその物語が始まるのはずっと先の話だ。
俺はまだ10歳くらいだし、あと12年はそれなりに自由に生きれる。

「まぁ色々あるけど……」

口から出た音は高く、不自然な気がした。
豪華な部屋。誰も居ない空間。それは母親が死ぬまで変わらなかった。

彼は今頃何をしているのだろう。
最期を見届けて、その事実を変えたくて、何度もこの歴史を繰り返している俺の最愛の人。

何時も目の前で死ぬクラトス。
何度も見ているけれど慣れる筈も無かった。

時間の感覚は分からないけれど、つい先程も彼の死を見て来たばかりだ。

真っ赤な血は徐々に彼の熱を奪い人形にしていまう。
どうしても生きていて欲しくて、自分より先に死んで欲しくなくて。
我が儘なだけだと思う。
もしかしたら幸せだった人が自分が捩じ曲げるこの世界で不幸になているかもしれないのに。

ユグドラシルが暗躍する前に殺してみたり、世界を一つ壊してみたり。

「結局変わらなかったけどな」

能力も知識も持ったままだから、自分が新しい支配者になることも簡単だった。
それでも助けられない、たかがたった一つの命なのに。

回避出来ない不思議な力が働いて、この両腕から消えてしまう。
捕まえておく事が、どうしても叶えられなくて。


小さく空気が震える。
ただの人間には分からないほど澄み切った気配。
今日は初めてクラトスに会う、何度繰り返しても幸せな気持ちになれる日。

その眼差し、その表情、射抜く瞳。
ああ愛おしい全て。
けれどまだ俺のものじゃないんだよな。

「だ、誰だよ?」

今回は知らない振りをしてみようか。
全部喋ったら上手くいかなかったから。

けれどクラトスの表情はどんどんくずれてゆく。
こんな反応は見た事がない。零れそうに潤んだ瞳。

「ゼロス、会いたかった」

その言葉は不意打ちで、無意識に動いた体はクラトスを抱き締める。
確かなぬくもりも懐かしすぎて、漸く望んだ道に来れた様な気がした。



「ありがとう、諦めずにいてくれて」

幾重にも張り巡らされた分岐点。
一つ一つ潰してゼロスを探して、何度も道を造って。
もう一度巡り会えたのは奇跡に他ならない。


「もう二度と離れない」

























end



未来は沢山あって、迷子になったふたりのはなし。

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