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□愛される人
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今日も空は青く輝く。
沢山の命を犠牲にして作り上げた世界の中でその神子は微笑んでいた。



その手を救いとする者、その笑顔を守ろうとする者は大勢居る。
誰かを守る、誰かを愛す、それをいとも簡単にこなしてしまう。
我が儘で悲痛な叫びに、潰れそうな懺悔に、彼女はただただ耳を傾けていた。
己を壊し殺してでも、零れる涙を拭いながらずっとずっと。
愛されるべき、愛されなければいけない少女。




「ロイド、好きだよ」

そんな少女が唯一望んだもの。
柔らかで白い指が祈る様に組まれる。
ずっと隣に居て励ましてくれて、死の淵から救い出してくれた人。
きっと昔から恋を知らない時から思っていた。
貴方と共に生きていく事が至上の喜び。
私だけを見て欲しい、永遠に、死が二人を分つまで。


「ロイドが居てくれれば私は何だって出来る。
絶対にふたりで幸せになれるよ、だから、一緒に居て欲しいの」

涙を堪えた瞳は宝石の様に煌めいて、これ以上無い程にコレットの美しさを引き出していた。
女の涙は最強の武器だと言うけれど、それは本当だなとロイドは苦笑する。


なんで俺なんだろう。
俺じゃなかったら良かったのにな、そうしたらお前を傷つけることも無かったのに。
ずっと傍に居た。
愛おしいと、守ってやりたいと思ってもいた。
あの時はコレット以上の存在なんて居ないと、信じてた。

ごめんな、俺なんかを好きになってしまって、要らない苦痛を与えてしまって。
こう言う時、アンタなら気の利いた言葉が言えるのかな?
でも俺の親だし、言えない気もするな。
こんな状況で俺は何を考えているんだろう、馬鹿みたいだ。


「俺はコレットと一緒には居られない」

美しい涙が落ちるのと同時にロイドの口から残酷な言葉が吐かれる。
見開かれた瞳の奥、吐かれた醜い感情を癒し、神子としての責務を果たし続けた強い光。

暗く消えていく、音が、した。


「……そっか、うん、そなんだぁ……」

崩れ落ちる細い体、抱きとめて、謝る。
何度も何度も謝って謝って、コレットが眠るまで、ずっと。
彼にはそれしか出来なかったから。

一度だけ頬にキスをして、ロイドは外に出た。
手には旅をする為に必要最低限の荷物。
最初から決めてた、コレットに思いを告げられたら遠くに行く事。
誰にも行き先は言わない、誰にも見つけさせない。
俺にはそう出来るだけの力もある。


「ごめんな」


踏みしめた大地、少し肌寒いのは気温だけのせいではなかった。
間違いだと皆言うだろう、責められるだけのことをした。
朝に起きて傍に愛しい人が居ない、その絶望は言葉に出来ないほどに悲しいもので。






クラトスが俺の目の前から姿を消した日。
この場所は俺には要らないものになった、あとはきっかけだけだった。
コレットを傷つけて、それでも欲しいもの。


「もういい加減諦めた方が良いんじゃないか、クラトス」

誰も居ない空間に、蒼の光彩が輝く。
相変わらずの表情で、それでも少し悲しげに見えたのは気のせいなのかもしれない。


「……コレットがどれだけお前を愛しているのか知っているだろう?」

「じゃあクラトスはどれだけ俺がアンタを好きなのか知ってるのかよ」

きつく睨み、腕を掴む。
そこから伝わる体温に、漸く実感する、此処にクラトスが居ること。

絶対に捕まえる。
禁忌だと言うなら、世界を敵に回しても良い。
それくらい好きなんだ、分かってるくせに、逃げんなよ。

ぬくもりに縋って、このまま居なくなってしまえたら。


「……分かりたくもなかったのだがな」

その笑顔は今まで見たものの中で一番悲しく、美しかった。
震える手と手、離れないふたりは寄り添い続ける。



「もう充分に分かった、お前と共に生きることがきっと私の至高の幸せなのだろう、きっと」








禁忌と背徳、それしか与えられないふたりは、それから二度と行方を知ることは出来なかった。



























end






コレットどんまい…

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