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□アネモネ
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「無理だ」

その答えにアッシュは視線を逸らさずガイを見つめた。
恐怖や懺悔の混ざったその色は遥か昔、まだルークだったアッシュを世話した時に見ていたものだ。
変わってないな、と無意識に笑みが零れてしまう。

何か叱られる様な事をした時、何か辛い事があった時、ガイが苦しんでいる時。
何時もその目で自分を責めていた。
聡い子供だった。俺の何倍も強くて優しい子供だった。
羨ましくて妬ましくて、憎くて。
ひたすらに許せなかった。


「俺に好意を持ってくれるのは、嬉しい」

好きだと、愛しているとアッシュは言う。
昔から今まで変わらず気持ちは揺れ動く事はなかったと。



「でも駄目なんだ」

その台詞は凍てつき、光を返さない。
悲劇の主役に、美徳を掲げた人間に俺は見える?

「なぁアッシュ、俺は善人に見えるか?」

そんな仮面を被ってやる様な、

「ホドを滅ぼした奴の息子を愛せる」

上辺だけの優しさをあげられる様な、

「とんでもない罪をたかが短い一生の中で許してやれる」

美しい、理想そのものの、

「綺麗な、純粋な、人間、に?」

流れたのは涙ではない。俺に涙を流す資格は無いんだから。
それでも視界は歪み、頬には生暖かい感触が続いている。

「俺はお前を許してやれない!
充分に罪を償ってくれたのも知ってる、それでも許せないんだ……」

どうして許せない?どうして望めない?
どうして、俺はこんなに醜い?

綺麗な人間になって、お前を迎えてやりたかったよ。
全部忘れて<俺も好きだ>って言いたかったよ。
でも出来ないんだ、そんなこと。
出来る筈が無いじゃないか。

「ごめんな、アッシュ」











手を伸ばし涙を拭う事は簡単だった。
それをしなかった、出来なかった理由は自分がガイを苦しめている本人だから。
自分の存在がガイを傷つけている、その事実だけが全てだった。

床に落ちる水滴と、唇を噛んで泣き声を抑える姿。
自分より年長で自分より優しい青年。
愛して止まない、憧れの人。
永遠に手が届かなくて、一番近い。
どうしても触れられない距離。



「好きだけど、許せない」

「愛してるけど、憎い」










鳴り止まない言葉。
それでも、お互いにさようならは言えないままで。


















end


アッシュで救われないの初めて書いた…ガイ様は過去を許せない自分に病んでそう(´・ω・`)イメージですが…
アネモネには薄れゆく希望って花言葉もあるらしいです

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