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□あんな別れは辛すぎる
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俺の救った世界。
愛するべき世界。
醜くて、儚くて、それでも誰もが精一杯生きる世界。


詭弁と嘘と、決してそれだけじゃないけれど。
救わなければいけなかった?




「本当にこれで良かったのか?」

窓際で空気が色付くのを見ている。
涼しい風は彼の頬をただ撫でるだけ。
ロイドは豪華な一室でじっと外を眺めていた。


綺麗な空。
夜は漆黒に煌めく銀を散りばめて、太陽は静かに息を潜める。
廻ればまた朝が来て、また夜が来て。


そんな正常な毎日。
それを受け入れられない俺。


「何故?お前は幸せではないのか」

反響する声。
話し方は紛れもなく、彼の、愛するそれで。

美しい世界、醜い人々。
ミトスが、かつての英雄が悲観し憎んだ世界。
ああ、お前は今の俺を見て笑ってくれるんだろうか。


「こんな筈じゃ、なかった」

どうして?何が?誰が?恐れているの?
世界を救った、強い英雄が?


「こんなの、望んでなかった」

馬鹿な子供だった。
何も知らない、無知で浅はかな。
救って終わり、みんな幸福になれるなんて、どうして思ってしまったんだろう。
その先はまだまだ続くのに。

色んな思惑、俺には理解出来ない摂理、セオリー。

あの日。
ただ強いだけでは駄目だとアンタは言った。
悪ですら多数決で正義になり得る、そう笑った。
背中からは幾多の剣の羽。

クラトスの魔法で焼き付くされた人間だったもの。
悪いのはどっち?

真っ赤に染まる。
それは間違いなく俺を助けたからで、微笑んでくれたのは俺を好きでいてくれたから?


「ロイド、私は幸せだった。
最期にお前を生かせたのだから」

透き通る瞳。
人間とは違う神秘的な姿。
それでも死んで、消えてしまう。
最期の時、本当にアンタは幸せそうに笑ったから、俺はどうしたら良いのか分からなかったよ。





「……俺はクラトスと世界を天秤にかけるまでもない。
クラトス、アンタが居れば良かったんだよ」

長くは続かなかった平和。
過ぎた力は迫害される、そんな簡単な事も分からなかった。

強すぎる俺を殺す為に真正面から向かってくる筈もなくて、姑息で、だけど俺には効果的過ぎる方法。
じわじわ真綿で締め付ける様に。


最初はコレット。
次に先生とジーニアス。
そこから先はあっという間。
もちろん最後は、俺の唯一の肉親、愛して止まないアンタだった。




「俺は生きるよ、クラトスが、みんなが生かしてくれた命だから」


窓の外は気がつけば夜になっていた。
ロイドはゆっくりと立ち上がる。
その手にはかつてクラトスが使っていた剣。
柄には生々しい赤がべったりと付着している。
誰の血かはもう分からなかった。

「クラトス、ごめんな」

薄青の羽がふわりと靡く。
この世界では生きている人間の方が少ない。
俺も、もう人間じゃない。
背に見える青がその証。





今日は満月。
明るい夜に、積まれた屍。
築き上げたのはかつての英雄。
悲しみもない楽園に住む彼は、ただ願い続ける。
この世界が早く滅ぶ様に、と。














end













大魔王ロイドさん。
ロイドさんはあの後色々大変そうだよね…

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