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□スカーレット
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愛して欲しいと、クラトスは泣いた。
「俺には無理だ。たとえ死んでも」
張り付いた笑顔。深紅の髪を指先で優雅に、どこか乱雑に遊ばせる。
それは恐らくゼロスの心が散らかって纏まりが無いから。
豪奢な部屋に撒かれた感情は、冷えきったままの冬の様で。
またクラトスは泣いた。
泣いたつもりだった。
けれど実際は端整で中性的な造りの顔が僅かに歪んだだけ。
その表情は悲しそうにも、苛立っている様にも、笑いを堪えている様にも見える。
今、クラトスはどの感情なのか、ゼロスには分からなかった。
「……何故?」
低い声。
ゼロスが大好きな声。
追い掛けて追い掛けて漸く手に入れた宝物。
本当は優しい瞳も、華奢な腕も全てが自分に向けられている。
本当に、幸せだったのに。
俺は愛せなかった。
「俺は俺が嫌い。それだけ。
自分を大切にしてやろうなんてこれっぽっちも思わない」
都合が悪いとすぐに逃げて、逃げ切れなくても逃げて逃げて逃げて逃げ続けて。
与えられた幸福を不幸だと勘違いして悲劇にしてみたり、何も出来ない何も知らない馬鹿で愚かで生きている資格すら無い、俺を愛してやれなんて。
「……そう、か」
世界が欲しいと言われたら、何もかも破壊して相応しい大地を捧げるだろう。
殺して欲しいと言われたら、笑顔で一緒に死ぬだろう。
クラトスの願いは全て叶えてやりたい。
けれど。俺は自分を愛せない。
「……なーんちゃって。
俺様は自分大好きよ?もちろんクラトスの次に、だけど」
解りきった嘘に悲しく揺らぐ双眼を手で覆い隠す。
これ以上何も言わないでくれ、俺はこのままで幸せだから。
「ゼロス、泣くな」
「はは、泣いてないって」
生暖かい水滴。
震える声。
受け止めてくれる人。
数々の幸せを与えてくれる存在。
それすら愛せなくなったら。
「心配するな、そうなったら殺してやる」
クラトスは、ゼロスの大好きな声で笑った。
それを覚悟しているかの様に。
end
久々すぎてゼロスの口調忘れた…
鬱気味ゼロスさんも個人的には大好物です