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□トワイライト
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「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス公爵、か」

豪奢な服、真紅の髪。
どこか悲しみを覗かせる姿。
冠を戴くキムラスカの王。

あの戦争が終わってもう5年が経っていた。
二つの大国の無意味な争い、其処に現れた共通の敵。

預言のない世界、解放された世界?
世界は平和になった、確かに、初めは。


「……今ならあの人が言った意味が分かる気がしますわ」


以前より長くなった金髪はたおやかに揺れている。
ナタリアはあの人……ヴァンが世界を破壊しようと起こした戦いを思い起こしていた。



あの頃、確かに人々は一つになっていた。
共通の敵に勝つために。勝つためだけに。


「それは変わってしまうもの、でしたのね」


彼女は夫となったルークの手に触れた。
彼は震えを堪えたまま、じっと前を見据えている。
その視線の先には真っ白な礼服を纏ったマルクトの大使。
手には書簡。中身は見るまでも無かった。

戦争が始まる。純粋に人間同士の。



「陛下は戦争の回避を心から望んでおられました。
しかし、キムラスカは恥知らずな行為をされた……マルクトは、ホドは、断じて許す事は出来ません」


空色の瞳はじっとこちらを見つめ続けている。
他人行儀な言葉はかつて仲間だった事さえ忘れそうな程に冷たい。

確実にキムラスカの失態だった。
馬鹿で浅はかな貴族がキムラスカとマルクトの国境に新しく出来た孤児院を燃やし、子供たちを虐殺。
理由は国の為云々と練られたものだったが、瞳は語っていた。

あの貴族は戦争がしたかった。
その為に、弱いものを犠牲にした。
ただそれだけだった。

それを阻止出来なかったのは国王と王妃の責任。
痛いほど分かっていた。


「ガイ……ごめんな」


その言葉しか出てこない。
あの戦いが終わった日、二人の道は別れた。
重ねた心も体も無かったことにするって決めたんだ。

絶対に俺はキムラスカの王になって世界を守る。
絶対にガイはマルクトの公爵になってホドを再興する。

お互いの望みの為に、さようならを決めた。
必要なのは地位。権力。
漸く手に入れたのに。


「ルーク、お前の部下がどんなに馬鹿な奴でも国民である以上は庇護するべき存在だ。
お前は国民の為に戦わなきゃならない……そしてお前が負けると言う事はキムラスカの終わりを意味する、分かるだろ?」


昔の様に諭す声。
あの日の様な、優しい、綺麗な声。
けれど瞳は語っていた。
自分の目的の為に、ルークを切り捨てる事を。


「分かってるよ、俺はキムラスカの国王。
命を賭けて守らなければいけないものがある」

嘘。嘘だ。
もしもガイが俺を必要としていると言ってくれたなら、俺は全てを捨てるだろう。
国民も、ナタリアも全部捨ててガイを選ぶ。

有り得ない妄想。
馬鹿みたいに駆け巡る思考。
愛してるんだ、誰よりガイだけを。
けれど、もう共に歩む事は許されない。
それももう分かってる。


「安心したよ。
……もしこの場に及んで甘い事を言う様なら殺していたかもしれない」

本当に安堵した表情。
あの日の様な、優しいガイ。
もう二度と見る事は出来ないんだろう。
もう二度と昔みたいに笑い合えないんだろう。


今目の前に居るのは皇帝直々の書簡を持つガルディオス公爵。
敵国の有力貴族。
ただそれだけ、なんだ。
日溜まりの中、微笑んで俺を呼ぶガイは居ない。


「……ガルディオス公爵、その書簡確かに受け取った」

流れない涙。
見つめている筈なのに、見えない、何もかも。
消える、消える、すべて。


「最後に一つ聞きたい。
ガルディオス公爵、この戦争どちらが勝つと思う?」


それはそれは優しい笑み。
まるで昔のガイみたいな。



「無論、両国とも滅亡でしょうね」


ガルディオス公爵は綺麗な声と表情で、未来を言い当てた。















end















淡々としている…長くなった!

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