2

□09
1ページ/1ページ






まるで夢の様だった。
夢なら良かった、本当に、すべて夢だったならどれだけ良かったんだろう。


ジェイドは膝をつき、抜け殻の双眼を閉じる。
あんなに綺麗だった色、細められれば青空の様に笑っていた。
その内に抱えていた感情に気づかない振りをしてしまった。

彼が望んだ結末。
世界にとって最高のシナリオ。
困った様に笑う彼。
私たちが与えた結末。
誰もが悪人で、善人なんて居なかった。
彼は死んで、私たちは生きている、その違いは?その意味は?


「弱かった、はるかに、私の方が貴方よりもね」


ただそれだけなのだろう。
貴方を突き放す覚悟も受け入れる覚悟も持てなかった。
そうして、終わりが来ただけ。
ジェイドは一度だけ彼の頬を撫でて、それ以上は触れる事すらしなかった。
その資格が無いと、分かっていたから。




傀儡人形みたいに彼の名を繰り返す英雄になる筈だったレプリカ。
ティアは触れる事すら出来ず、ナタリアはアッシュの亡骸に、アニスはシンクの亡骸に、ただ黙々と祈り続けている。
誰も何も返さない、返せない。
この場に光を与えてくれる人間はもう自分たちが殺してしまったのだから。


ルークは唇を強く噛んだ。
握りしめた拳はもう真っ赤に染まっている。
それは誰もが同じだった。
無力で、けれども人を簡単に三人も殺せる力。
きっと誰ももう神になんて祈れない。



「それでも、俺は先生のところに行かなくちゃいけない」


「終わらせなきゃいけないんだろ?」


「分かってるんだ、俺は世界を救わなきゃいけない。
俺が殺してしまった人たちへの償いの為にも……ガイが居ない世界でも」


「居ない、セカイでも、さぁ、生きなきゃ、いけないんだろ!?」


涙が溢れ出す、それは生きている者の特権。
彼等はもうそれすら出来ない、殺したのは?


「俺たちは仲間を、和解できたかもしれない敵を、大切な人たちを、ずっと傷つけて心を壊して、殺した」


人形になってしまったみたい。
もう何も考えられない、考える必要も無い?
彼が遺していった消えない呪縛、でもそれが無ければ誰もこの大地に立ち続ける事は出来ない。
殺したのは?裏切ったのは?殺されたのは?本当にそれを望んでいたの?
分からない、もう永遠に分からないままだ。

どんな善行をしたって消えない、手のひらに残る感触も光景も。
ガイは笑っていたっけな、さようならって、前みたいに綺麗な笑顔で。



「ガイの復讐は一生続くでしょう。それこそ死ぬまでね。
きっと幸せにはなれない。どんな栄誉を得ても、神に許されたとしても、私たちは……彼らを殺したのだから」


「ああ、分かってる」


絞り出す掠れた声。
遠くを見ている瞳、そこに未来は見えない。


後世に伝えられる英雄。
誰にも知られる事のない悲劇。















全て終わった後、彼等は何を願うのだろう。











「なぁジェイド、もし俺がガイを忘れるくらいおかしくなったら……殺してくれないか?」


「構いませんよ、私も貴方に同じことを頼もうと思っていましたから」


「そっか、きっとティアたちは立ち直れる。
でも俺は……無理だから、さ」


「でしょうね、私もです」


「ほんとはすぐに追いかけたいけど、まだ俺はガイを覚えてるから」


約束。
彼の願い、彼の復讐。
強く強く守り続けるその言葉を。
呪いでもなんでも彼の最後の言葉なのだから。



「どちらが先におかしくなるでしょうね?」


自嘲。
けれどその結末を考えれば少し幸せになれる。
深く深く終わらない復讐。
覚えている間、ガイは近くに居てくれるような気がして。


「俺の方がガイのこと好きだから俺だな!」


愚かすぎると自分たちでも分かってはいるのだけれど。
そう願いたい。そう遠くない未来に絶対傍に行くから。

























二人は白い花の中、安らかな笑顔。
握られていたのは忘れたはずの彼の蒼い剣。
誰も知らぬ世界の果てで彼の復讐は終わりを告げた。






























next

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ