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「俺、結構頑張ったと思うぜ?
何千年経ったか忘れたけど、即位している間小さな反乱も起きてない。
飢えも、差別も、もう無い。
平和だよ……コレットが望んでた平和そのものだ」


「お前はコレットの為に?」


「まぁ、それもあるかな。
コレットは俺を愛してくれた、クラトスの次で良いから一緒にいてくれってさ……健気で可愛かった、けど愛せなかった。
だからせめてアイツの願いくらいは、さ」


大きな城の中、その中で最も華美な王の自室で二人はただ見つめあう。
クラトスは悲しみ、ロイドは諦めきった顔で。


美しい世界だと思っていた、だからすべてを賭して守りたかった。
けれど知らなかった。
世界は〈守り続けなければならない〉事に。
これからある筈だった限りある平和な人生、それすら捧げていかなければならない。
俺は世界の英雄なのだから。





「どうしてあの時一緒について行かなかったんだろう?
変な罪悪感なんて持たないで、アンタと一緒に行けば良かった。
……今思うのはそれだけだよ」


あの日俺はこの未来を決定付ける選択をしてしまった。
誰に引き留められた訳じゃない、だけれど置いてなんていけなかった。
縋る民衆を必死で癒そうとするコレットを、俺を愛してくれているコレットを置いてなんていけなかった。


長い長い歳月、年月。
彼の瞳はもう何千年も前に見ていたものではなかった。
闇の中で蠢く感情のすべてを宿している、彼の孤独をそのまま色にした様な。


「長かった、本当に。
人々に乞われるまま天使になって、それでもこの世界に居たかった理由は、」


弱い者たちは絶対を欲しがった。
その存在を崇める事で救われたがった。
けれど、そんな事は最初から分かっていた事。
誰も支えがなければ生きてはいけない。
俺にとってのクラトスの様に。


「もう一度、一目で良い、クラトスに会いたかった。
あの日、コレットを見捨てられなかった俺はそれだけを支えに生きてきたんだ。
アンタにもう一度会う為なら世界なんていくらでも守ってやるって、そう、思ったんだ……」


綺麗に着飾った俺はただの人間では無くなり、永遠に全てを統べる絶対の存在になった。
世界を救った英雄。
それは永遠の象徴であり、此処から先消えてはいけないもの。
絶対の権力者であり光そのもの。


王は戦い続ける、終わりのない、勝利も敗北もない戦いを。
王は生き続ける、たった一人で、死にゆく仲間を見送りながら、孤独なまま。

すべては愛しい人にもう一度会う為に。




「……すまない。
あの日、私が一緒に来て欲しいと言えていたならお前はこんな苦労をせずに済んだのに」


別れたくなど無かった。
けれどロイドにはまた違う人生があるのではないかとも思ってしまった。
ただ、恐れただけ。
いつか消えてしまう愛なのではないかと。
そんな迷いが、ロイドを何千年にも亘って苦しめてしまった。




もう迷わない。
迷ってはいけない。
今言わなければロイドは二度と自分と会わないだろう。
絶望に染まり、もう帰ってきてはくれない。
心を殺し永遠の王として君臨し続けるだろう。


それが世界の選択だとしても、私は許さない。








「ロイド、私はまた宇宙に行く。
もう二度と帰らぬ」


「うん、そっか……」


ロイドの肩が震える。
ああ、あの時と同じだ、あの、別れの時と。
やはり間違っていたのだ、あの選択はしてはいけなかったのだ。
もう二度と間違えたりはしない。


「だから、一緒に、」


「いーーーや、今度はなんて言われたって俺はクラトスと一緒に行く!
もうこの世界の為に、コレットの為に生きていくのはやめるって決めた!今決めた!」


俯いて言いかけた台詞をロイドは容赦なく遮りクラトスに抱き着いた。
その瞳は生き生きとして先ほどまでの面影はもう無い。


「……まだ話していると言うのに、お前はっ」


「え、クラトスなんか言ってくれる気だったのか?
まぁでも良いか、これから先ずっと一緒の方が幸せだし!」


強く抱きしめられ、呼吸が出来なくなる。
昔はずいぶんな身長差があったと言うのに、まさか自分より大きくなるとは思わなかった。



「……本当に大きくなったな、遅くなってすまなかった」


「もう良いって、俺今生きてて一番幸せだから!
ほら、早く行こうぜ!
実は結構前から出かける準備はしてたんだよなぁー。
俺は今日で王様終わり……うん、置手紙でもしとけば大丈夫だろ!」


「ああ、今回はそれで良いだろう。
頑張ったお前への少しばかりの褒美だと思えばな」







窓を開け放つ。
天使である二人の背には美しい、蒼い羽。

青空の中に消えた二人はそれから二度と姿を現さなかった。







もう世界に唯一は居ない。
それもまた、世界の選択である。


























end
























珍しく報われてるロイド君(笑)
長くなったー二人でずっと宇宙にいたらいいと思う。

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