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□私が戴くその時には
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歓声が響き渡る。
赤髪の新しい王は眼下に広がる光景に目を細め笑った。
掲げられた腕は自信に満ち溢れ、歴戦の英雄である事を物語っている。

かつての戦友達が祝福の言葉を持って訪れ、それにまた笑顔で答える。
妻であるナタリアはその隣で柔らかな笑みを浮かべていた。


「おめでとうございます、陛下」


「ありがとう」


政略結婚である事は周囲もお互いも理解していた。
ナタリアは今でも一番はアッシュであり、ルークにも心に決めた人が居る。
それでも世間は民衆は二人に共にあることを望んだ、だからこれは仕方ない結果だった。













式が終わり、ルークは一人部屋でベッドに横になりながら天井を見上げていた。
控え目なノックの音。
誰かは、分かっていた。


「失礼致します、陛下」


起き上がり相手を見る。
金髪がキラキラと眩しく、瞳は綺麗な空色。
戦いに出なくなってから白くなった肌が余計に彼を中性的に見せていた。
彼は一度会釈した後は、瞬きもせずじっとこちらを見ている。


「もう俺はただのルークじゃないんだよな?
ナタリアだって堪えてるんだ、俺も……堪えなきゃいけないよな」


「はい、陛下」


「……ガイとも、もう一緒に居られない」


「はい、陛下」


空色は少しも揺らめかない。
表情も少しも変わらない。
悲しい悔しいと縋ったところで何も好転などしない、だから泣かない。
そんなガイの気持ちが手に取る様に分かり、ルークは自分の瞳が潤んで来ているのに気付き慌てて話を続ける。


「今まで本当にありがとう」


言い切ってしまわなければ。
これを逃したらきっと俺は嗚咽で話せなくなってしまう。
言わなきゃ。
ガイの口からは聞きたくない。
俺から、言わなきゃ。


「ガイに会えて良かった幸せだっただからさようなら」


ぽたりと握り締めた拳に涙が落ちる。


「あい、してるっ!
これからだってずっと、ずっと!だけどおれ、おれはっ」


止まらない雨粒と声。凄く情けない声なんだろう。
それでも言わなきゃ。


「このせかいもっ、このくにもにんげんもっ、みんなたいせつなんだよ……」


声をあげて泣き叫ぶ。
どんな格好良い言葉を並べたって、俺はガイを選ばなかった。
手段ならあった筈だ、けれど選ばなかった。


「はい、陛下。分かっております」


ガイはまだ表情を変えない。
ただ淡々と別れの言葉に対して返事をするだけ。


「陛下はお優しい方ですから、私と共に地獄へ落ちる必要はありません。
貴方に似合うのは栄光の道のみ、どうか英雄らしく王道をお進みください」


美しい瞳。美しい声。
悲しいと思ったのは初めてだった。


「……俺は永久にお前と会わない。
ルーク、お前はもう選んだんだ。
選ばなかった方はもう二度とお前の手中に還る事は無いのさ」


笑う。
踵を返し扉を開ける、最愛の人。
涙で何も見えない、それでも彼は笑っていた筈だ。
あの困った様な表情で。


「さようなら、ルーク」


閉まる扉。
部屋から聞こえる、更に大きくなる泣き声。

ガイは最後まで表情を変えず、ただ前を向いて長い廊下を歩き続けた。















end















大人なガイとお子さまなルークが書きたくてこんな感じに。
ぶっちゃけ泣きたいのはガイだと思う…多分ジェイドあたりがすかさずフォローにまわると思いますが笑

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