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□運命でも叶わない
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ふたつの思いが離れたのは何時であったか、クラトスにはもう思い出せない。

溜め息すらもう出てこなかった。
何度も読んだ本を、無駄と知りながらまた最初から目を通し始める。
最後は泡となり消えてしまう悲劇の姫君。
彼女があの男に出会わなければ、愛さなければ訪れなかった終わり。

美談だと誰かは泣いていた。
愛する男を殺せず、憎めず、ただ消えた彼女は美しいと。

馬鹿馬鹿しいとクラトスは思う。
そんな存在、この世に居る筈も無い。
お伽噺だから、他人事だから心を打つのだ。

事実、自分はこんなにもあの人間を愛して憎んでしまっている。
下らない感情を持ち続けている己自身。
愛しているから一緒に居たかった。傍に居たかった。

けれど、もう、疲れてしまった。

長い時を生きてきた。
もう充分過ぎる程、おかしくなる程の果てしない時間。


「……もう良いのだろうか」


一人自嘲し、本を閉じる。
ずっと読んでいたかったのは、愛しい人間からのプレゼントだったから。
これを持っている内は互いの愛しさも消えないと、信じていたかったから。


足音が聞こえる。
何時も聞いていた、けれど今回までの音。
もう二度と聞く事は無いだろう。
儚く淡い感情ですら自分の言葉一つで呆気なく終わる関係。
何て軽薄なものに縋っていたのだろうかとクラトスは愛していた人間の前でまた笑った。





「さようなら」


「もう会うことも無いだろうけど」


「貴方の幸せを祈ってる」


繰り返される言葉。
ああ何度目だろう、もう何も感じない。
思い出す短い幸せ。
確かに愛した存在。たとえ彼に及ばなくとも。
去る後ろ姿を見て末路を思う。
私に関わらなければ、もう遅いけれど。
後ろ姿を最期まで見ずに扉を開けた。










雪は何度も見てきた。
けれどこれで見納めと思えば少しは変わって見える。

いとおしいひと。
いとおしいせかい。
いとおしいすべて。

けれど疲れてしまったから。
投げ出して消えてしまいたいくらいに。



「そんなに、アイツが良かったのか?」


後ろから聞こえる声。
振り返るつもりは無い。決めているのだ。
終わりも、すべて。


「あーあ、俺の方がアイツより何倍もクラトスの事好きなのに」


飄々とした声。
けれど笑わない声。


「なぁクラトス、俺はお前に逝って欲しくない……だけどもう決めたんだろ?」


ただ頷く。


「なら、もう止めない。今までありがとう」


その言葉に小さく笑う。
きっと振り返ったらゼロスは泣いているのだろう。
けれど私の意思を尊重して耐えている。


ああなんていとおしい。
ああなんてかなしい。


「もしも私がお前を選んでいたら、私は私を許さなかっただろう」


理解出来なくても良い。
気づいてくれなくても良い。
幸せになって欲しいから一緒には居られない。


「私は長く生きすぎた。だからここで終わらせようと思う。
また何処かで、きっと、いつか……だから」





「もう、誰も殺すな」


ゼロスの手には先ほどまで息をしていたクラトスの元恋人の首。
その言葉にゼロスは真っ赤な唇を吊り上げた。








「王子様を殺せば人魚姫は生き残れるんだろ?」















end















クラトスはほんとはゼロスが好きだけどゼロスの愛に応えない→ゼロスはクラトスが好きで嫉妬マックスでクラトスの恋人を毎回殺す→クラトス新しい恋人作る→ゼロスがクラトスの恋人を殺す無限ループ!
病んでるふたり。
多分ふたりで来世に期待パターン。

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