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□忘れる代わりに
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「俺は此処から出る気はないよ」


与えられた屋敷で綺麗になった世界をただひたすらに眺めて、何だか深窓の令嬢みたいだなと少し笑った。
暖かい紅茶が入っているカップを覗く。ゆらゆらと映る自分は本当に惨めで。

こんな人生を生きる為に俺は復讐を止めたんだろうか。
神々しい程に存在を誇示する剣、責められているのは気のせいではない。


笑って下さい。
結局俺は自分の命の方が大切だったのです。
願って誓ってけれども情に絆されて、貴方たちを見捨てた。
恨んで下さい。
いっそこのまま消えてしまって構わないから。
誰も触れないで、誰も許さないで、俺はどんなに取り繕っても真っ赤に染まったままだから。


「そうか、そうだよな……」

ルークは自分に言い聞かせる様にその言葉を噛み砕く。
白くなった肌はあまりにも痛々しくて、けれど自分にはどうすることも出来ない。
自分の屋敷に連れていってどうする?
復讐だけを願っていた空間に戻して良いのだろうか?
きっとそれは状況を悪化させるだけだ。
このままが一番なんだ、このまま、笑っていてくれた方がきっと幸せなんだ。


「ああ、そうだよ」

世界が救われた後。
もう何年経ったのだろう、ルークが帰って来て全てが元通りになった。

平和、だ。色々なものを犠牲にして得たもの。
死んで逝った者たちは本当にこの情景を喜んでいるのだろうか。

誰かの為に、守る為に振るっていた訳でもない。
復讐したかっただけ、全てを壊してしまいたかっただけなんだ。

俺は平和を望んでいたのだろうか?
答えは否、だ。

「……俺は自分が幸せならそれで良い、最低な人間なんだ」

静かに視線を合わせる。
綺麗な赤色、レプリカと呼ばれた可哀想な子供。
俺の憎しみも何もかもを受け止めてくれる純粋で綺麗で眩し過ぎる人。
俺はお前には勝てない、眩しくて手も伸ばせない。

この狭い世界で。
一歩も外に出ずに、窓の外の幸福たちを眺め続けている。
それで良い、俺に幸せを享受する資格はないんだから。


「このまま、誰も俺を気に留めなくなって忘れてくれれば良い。
どんなに思い出そうとしても思い出せないほどに」

そうしたらシアワセになれるかもしれない。
少しは安らかな気持ちで死ねる。
それはとてもとても甘美で恐怖でドロドロした感情。



「俺は忘れない、絶対にガイの傍に居る」

重い。その台詞をどれだけの誓いで言っているのだろう。
ガイはただ微笑んでいるだけで何も言わない。
その言葉、その視線、その愛が空色の瞳を縛り続けて。
いつか窒息して全てが終わる。
それは誰の幸福?ルークのシアワセになるのだろうか?

もう、彼の心では受け止めきれない愛情と、それでも捧げようとする心と。



「迷惑、だって言ったら?」

「諦めない、ずっと好きでいる」







何度も何度も何度も。
捧げられる心。

綺麗だと美しいと皆言うのだろう。
壊れそうなものに目を向けることもなく。



何度も何度も何度も何度も。
廻る、だけ。




















end









愛は重い。

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