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□たわごと
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彼は誰からも望まれて生まれてきた。
綺麗な空色、金色の髪。
均整の取れた美しい体。

表の優しい表情。
裏に秘める闇の深さもガイを彩る一つに過ぎない。

其処に在るだけで彼は眩しい。
望まれた、命。


「……此処は?」


何が起こったのか理解出来ていないのだろう、瞳はただぼんやりとシンクを見つめている。
目覚めたばかりで働かない頭をガイは強く左右に振った。


知らない部屋。
ベッドに寝かされた自分。
敵であるシンクが仮面を外して横に座っている。
憎悪を忘れた様に笑っている姿はイオンに近い。


「夢だよ、僕が最期に望んだだけの空間さ」


死ぬだけの僕を誰かが憐れんだのか、この美しい青年を忘れられなかった未練なのか。


「……そうか。
シンク、お前はもう居ないんだもんな。
俺より先に終わらせたんだよな」


ガイは笑う。
其処には決意。
揺るぎ無い意思は誰であっても覆せないんだろう。


「そうだよ、僕はアンタみたいに残酷じゃないから早く終わらせてやったんだ」


誰かさんに対する理不尽な程の憎悪。
きっと僕よりも深く終わらない感情。
僕の選んだ道は近い未来、ガイが選ぶ道。
誰かさんにもっともっと酷い傷を残して終わるそれ。
ちょっとだけ羨ましいなぁ。


「で、俺に何か用事でもあったのか?
まさか愛の告白でも無いだろう?」


その表情はもう嘲りに近い。
シンクはただ笑う。それは肯定だった。


「僕にはもう何もないからね。
アンタと違って素直になれるんだ」


僕はもう死んでいるからね、とシンクはガイを抱き締める。
あるはずのぬくもりが無い。
けれどそれは仕方の無い事だった。


「俺はそう言う冗談嫌いだって知ってるよな?」


愛なんて、信じない。
掴めない無意味なもの。
惜しみ無く与えられ無慈悲に奪われた、ただそれだけのものだ。
もう同じ思いはしたくないしするつもりも無い。


「冗談じゃないってば。
……僕はもう消えるから、ガイの傍には居られないけど。
出来ることならこっちにはこないで欲しいと思ってる」


「何故?」


その問いにシンクは聖人の様な笑みを作る。

分からないなんて、それこそ冗談でしょう?
アンタを愛する人間は皆同じ思いに決まってる。


「愛する人よ幸せに、どうか幸多い未来を」


目を見開いたガイの姿にシンクは満足する。
意識がもう薄れている。
此処までなのだろう。


「ガイは、皆に望まれて生まれてきたんだから」


その言葉だけ伝えたかった。
だからもう十分だ。












「なぁシンク、お前が生きていれば……お前が傍に居てくれていたら」


ポロポロ。ぽろぽろ。
落ちる水滴。


「その戯言もきっと信じられたよ」


もう居ない存在の為だけにガイはただ泣き続けた。















お前が居ないなら、それは幻でしかないのに。
















end















シンクの自己満足→おいてけぼりガイさま。
多分ガイさま普通に誰かさんに復讐すると思われる。
愛は自己満足じゃだめだよね!

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