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□吊られた星
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揺れるこの場に彼等の居場所は無い。


「これで、良かったんだよな、俺達は」


これ以上無い程に青白い頬に手を添える。
赤らんだ目元は涙でも流したのだろうか?
だとしたら嬉しいのに。
ほんの少しでも心に居れたら良いのに。
俺はもう消えてしまうけど、生きていた意味を持てるから。


「そうだな、これで良かったんだよ、俺達は」


霞む目の先でガイは笑っている。
静かな声、もう聞けないなんて。
優しい笑顔、もう見れないなんて。


「ティアは怒ってるよな……俺が、最期まで嘘をつき通せなくて」


ガイは無言でそっとルークの髪に触れた。
弱く、けれども強い彼の命はもう続かない。
誰が悪い訳ではない、ただ、天命であるのだと。
何時か命あるものは消える、それだけなのだと。

もう消えてしまう、遥かな旅に出る世界を救った英雄。
ルークがこの世界で一番好きな笑顔でガイは微笑んだ。
脳裏に浮かぶのはルークに恋い焦がれていた彼女。


〈最期は貴方と過ごしたいって。もう、私とはさようならだって。
分かっていたの、私にルークが必要だけれど……それだけなんだって〉


泣きじゃくり蹲るティアを見下ろす。
透き通った純粋な彼の瞳に憐憫は全く見えない。


ティアの美しい恋心に応え続けたルーク。
ルークが病で倒れたと聞いた時、俺は少しだけ嬉しかった。
漸く思い知らせる事が出来ると。
なんて醜い独占欲。


〈残念だったな、ティア。
ルークを手に入れられなくて……いや、違うか。
ルークを俺から奪えなくて、が正しいのか?〉


その言葉で更に歪む表情。
見上げるその瞳には綺麗な涙が絶え間なく流れている。
憎しみがこんなに心地良いなんて知らなかった。

アイツは最初から俺のものだよ。
消えても魂が離れても、永久に。
奪えるなんてどうして思ったんだ?



その瞬間から今まで、二人きりで過ごしている。
誰にも干渉されず動かない空間で。
そしてもうすぐ終わりを告げる。
悲しいけれど、仕方無かった。


「俺はルークを追って死んだりはしない。
でもずっとルークの為に生きるよ、約束する」


そう笑えば、ルークも笑い返す。
後追いなんてしない、きっと同じところには行けないから。
真っ白に愛されるルークと、全てを憎んできた俺。
同じなんて有り得ない、絶対に。

この思いも記憶も俺のもの。
糸が解けてしまって会えなくても。
過去だけで生きていける、それほどの蜜月だった。


「ありがとう、幸せだった。
ガイに会えてほんとうに」


ああなんて迷いの無い声。
天に旅立つ英雄はきっとこの世界が終わるまで人々に愛され続ける。


「俺もだよ、こんな俺を愛してくれてありがとう」


もう離れてしまう。

それは明日か、この瞬間か。
分からないから、知りたくないから、彼らは静かすぎる空間で涙味のキスをした。




最期の言葉を思いながら、ただ密やかに。




彼らの世界の終わりまで白い部屋は存在し続ける。















end
















私はティアに何か恨みでもあるのか…。
ルクガイで立ちはだかるのはティアかなって思ったらこんな事に!

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