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□ミスティレイン
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ぽつり、と雨が降り始めた。
窓の外に見える景色は濡れた地面と残る水滴。
このまま激しく降るのだろうか、クラトスは白い指で窓に触れる。


何時からか、目眩がする様になった。
何時からか、長時間動けなくなった。
握った剣の重さは心の奥底に仕舞っておいた罪悪感、懺悔、後悔。


消えた命を背負える程の存在では無い。
自惚れていたのだろう、私は全てを持ち続けられると。


呼吸がままならない。
揺らぐ視界、指から伝わる微かな冷たさだけが意識を繋ぐ。

何故此処に居るのだろう。
誰に必要とされて?誰に縋りたくて?

誰かが呼んでいる。
行かなくては、行って良いのだろうか。
本当にその声は私に向けられている?
ただの勘違いかもしれない、そうだとしたら私は何故此処に?

まわる思考。
答えなんてある筈が無い。
ぐるぐると循環するだけの思考。
答えなんて必要無い。
知りたくなど無いから。



ふらつきながら辛うじてベッドに横になる。
目を閉じて、全てを手放す。
誰かに掴まれた腕が痛い、叫び声が響く。







「クラトス!クラトスッ!……また、寝たのか」


ゼロスは辛そうに顔を歪める。
クラトスは眠り、その顔は安らかとは言い難い。

何時からだったか、クラトスが戦えなくなったのは。










白い肌は痛々しい程。
剣を握る手は震えが止まらず、誰の目から見ても異常だった。

それを見ているだけ、ただ呆然と。
何処かで思っていたんだ。
クラトスなら大丈夫だと、瞳に映る恐怖を知らずに。

病んでいくクラトスの世界。
逃げるかの様に眠り続ける彼。
どんな夢を見ているのだろう、ああせめてそれだけでも幸せなら良いのに。
彼が住まう迷宮に、彼が繋ぐ苦しみに一体誰が入り込めるのか。
気持ちが分かるなんて、死んでも言えやしない。

再度繋ぐ手。
離さない、縛り付ける様に強く。
漸く幸せになれると思ったのに、彼の実直な心がそれを許さない。


「……、クラトス」


返事は無い、分かっている。
決断しなければならない、愛する人の為に…否、自分の為に。


全てを忘れる、それは幸せな事なのだろうか。
あの笑顔も、辛い涙も、忘れてしまう、それでも過去に縛られるよりも幸せなのだろうか。


決めなくてはならない。
クラトスが、クラトスのうちに。



其処には真っ赤な液体。
全てを忘却出来る奇跡の薬。


クラトスには幸せになる権利がある。
例え全てを忘れてしまっても笑って生きていく権利が。


「……きっと俺は耐えられる。
クラトスが俺の事を忘れても、何回だって告白するさ」


雨。白い空間。とける赤。















消える、記憶。















end












めっちゃ久しぶり(´・ω・`)
何時だかに書いた忘れものはありませんか?に続きます。

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