セイギの声が消えるころ

□わすれなぐさ
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消したい過去がある。
壊した思いがある。












「るーく」

「うん」

優しい声だと思った。
無知で、だから純粋で。
全てを許してくれそうで、甘えても良いと笑ってくれそうで。

刀身が赤に染まる度に彼は生きているんだと感じた。
壊れずに此処に居る。居てくれる。俺の為に?ほんとうに?

見ているだけであたたかく、触れれば穢れを移してしまいそうで怖かった。

「ごめんな」

「……うん」

その言葉をどれだけ待ったんだろう。
必要とされない俺が待ち続けた台詞。
陽炎が揺らめいて、月が見下ろしている。
ああきれいだ。
もっと囁いて、もっと必要として。
俺に、殺されるだけの価値があると教えて欲しい。

みんなみんな俺を許してしまった。
ひとりで抱え込む必要はないと、もっと頼って欲しいと。
……それじゃ駄目なのに。
それで俺は救われない。


真っ赤な視界に、真っ赤な刀身。
しあわせだとは言えなかったけど、そんなもんなんだろう。
咎だ。生きたいと願った時からの。
消えるはずだった命に縋ったんだから。

「あいしてる」

「……」

ほんとは聞こえてるよ。
忘れないよ。
その涙も、その優しさも。
あたたかいものをくれた手のひらも。
愛おしいと思えた綺麗な人。

月のひかりが反射する。
見えないのはもう消えてしまうから?


「なぁ、お前だけずりぃよ……トドメ刺さないで勝手に逝くんだから」

「仕方ないだろ、俺にお前が斬れる訳なかったんだ」

「よく言うよ、俺だって死にそうだっつーの」

最期に鈍ったのはよぎるものがあったから。
笑顔、泣き顔、それから……





許されたかったんじゃない。
壊してくれるほど必要とされたかった。
それを分かってくれたのは、ルーク、お前だけだったよ。











end
 

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