セイギの声が消えるころ

□その手で、
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全てが終わった。
本当に真っ白になった。
眩しいくらいに輝く大樹は命を漲らせて見下ろしている。
彼はいつもの黒いマントを纏わず、ぼんやりとそこに座っていた。






「本当にこれで良かったの?」

マーテルは彼の隣へそっと並ぶ。
長年夢見た光景。彼と彼女は愛し合っていた。
確かに過去では。
優しく微笑む彼女はただ彼の返答を待つ、
分かりきった、何度も繰り返すその返答を。

「……ああ」

嘘吐き、と彼女は笑顔にそれを滲ませずに思う。
確かに、確かにわたしたちは愛し合っていた。
何千年と言う歳月が過ぎてもそれは変わらない、そう思っていたかっただけ。
心は変わる、どうしても同じではいられない。
あなたが彼を愛してしまったように。
変わってしまうの、わたしがそれに気付いてしまったように。

「もう逢えないかもしれないのよ?……クラトスと一緒に行かないで良いの?」

独りで全てを背負おうとする人。
愛おしくて守ってあげたくて、わたしには出来なかった。
ミトス、きっとあなたも同じ気持ちだったんでしょう。
人間でありながらわたしたちの味方をしてくれたクラトスを全てのものから守ってあげたいと。
守られていたのはわたしたちだったのに。








「あいつは馬鹿だ。
全ての罪を自分だけで償おうとしている。
勝手にやらせておけば良いのだ、いつか気付くまでな」

彼はいつもの意地悪そうな顔で笑う。
ああ、敵わないわね二人の絆には。

「また何千年とかかるかもしれないわよ?」

「この身が朽ち果てるまでは待っていてやるさ」

「ふふ、男って本当に馬鹿だわ」


マーテルは涙を堪える様に澄み渡った空を見上げた。
ねえ、今どこにいるの?
わたしの恋を奪った色男さんは。
















end




これマーテルが主役みたいになってる……
ユアクラです、一応

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