セイギの声が消えるころ

□クライマックス
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彼はほんとうに馬鹿な人だった。
勝手に苦しんで、勝手に泣いて、勝手に決断して。
誰にも相談せず、誰にも縋らず、誰にも心を開かないで。
今思えば作り笑いだったのだろう、優しい笑顔が脳裏をよぎる。


ある日、彼は敵になった。
ごめんなと、いつもの笑顔で。
そして、いつもの笑顔のまま消えてしまったのだ。














「やあジェイドの旦那、久しぶり」

そう笑う彼は昔と同じ。
まだ逢って間もなかった頃と何も変わりはない。
なのに、この手はもう届くことはない。

「おやガイ、珍しいですね」

雪が降りしきる夜だった。
何となく外に出ただけ。
金色の青年が立っているとは思わずに。

街灯がただ影を作り、ゆっくりと時間を進める。
無言で、足音だけが街に流れた。

こんな夜はきっともう二度と無いだろう。
ジェイドは無言のまま思う。
こんな奇跡、彼が私に逢いに来てくれるなんてもうあり得ないのだろう。
神が最期に残した慈悲か何かなのだろうか。

神なんていない。分かっている。
それでも……。



雪に囲まれた世界。
無音の、ふたりだけの世界。

ガイはただ微笑み、ジェイドの隣で立っているだけ。
あの時と同じ綺麗に作られた笑顔で。


「まったく、あなたは最期までその顔で行くんですか?」

「仕方ないだろう?俺はもうアンタと同じ世界には居られない」

「だからこそ、最期くらい本当の顔が見たいんですよ……ガイラルディア」

抱きしめたぬくもりはもう冷たい。
しばらく歩いていたから?違う。違う。
何故なら、彼は。


「そう、だな。
ジェイド、これが最期だ。
俺はもう、いかなくちゃ……」

涙はもう透き通り、地面に落ちるところまで見えない。
初めて見た彼の泣き顔。
こんなにも胸が苦しくなるなんて。

覚悟していたはずだ。
ガイが此処に来た理由。
最期に私のところに来てくれた喜びと一緒に。




忘れる事は出来ない。
彼が目の前で赤を散らして死んだ事。
治癒を拒むために崖から落ちた事。
誰も彼を救えなかった事。

平和と呼ばれる世界になった今でも、胸に残る傷。
誰も癒そうとしない。
消す事はガイを忘れる事だから。
誰も彼を忘れたくない、それほどの存在だったから。



「ガイラルディア、あなたは幸せでしたか?」

「もちろん、結局は裏切ることになったけど……俺はなにも後悔してないよ」

世界を許すことは出来なかった。
何処までいっても平行線だったんだ。
どちらかが死なないと終わらなかった。

だからもう、泣かないでくれ。



「……いってらっしゃい、ガイラルディア。
早く帰ってくるように。
あなたにはまだやる事がたくさんあるんですからね」

もう逢うことはないだろう。
それでも、願う、願ってしまう。
また彼が幻でも帰って来てくれることを。

「ああ……逝ってくるよ」









振り返ると、足跡は一人分しかなかった。
分かっていても、涙がこぼれた。














end






ほんとに最期のお別れ。

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