セイギの声が消えるころ

□慟哭
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「ごめん」



その言葉たちはあまりにも軽い。
好きだよ。
愛してる。
ずっと一緒に居よう。
約束だから。


ああ、その言葉たちを信じる者は愚かだ。
宙に浮いて手など届かないのに。
甘い香りを撒き散らす毒に惹かれてしまう。




「お前に言われるまでもなく知っていたが?」

もう子供ではない。
無知は罪、そして虚しい。
誰かの言葉を信じたところで、この人間だけは違うと願ったところで結果は一緒。

美しい心を持った人間など居ない。
知っていたからこそ、わたしはミトスを止められなかったのではないのか?




きっと何処かで信じたかったのだろう。
人は、変われる生き物だと。






「どうせ何時もの様に甘い言葉で虜にでもしたのだろう?」

わたしにかけたのと同じ言葉で。

あいしてるよ、いっしょにいたい。
ずっとふたりでいきよう。


「あの女は遊びだった。
俺はクラトスを一番愛してる……」

「今更だな、遅すぎる」

一度失った信用はすぐには取り戻せない。
遊びだった?だとしたら何か変わるのか。
裏切りの代償は別れでしか償えない。

嘘は嘘しか産まない。
もう聞きたくない、わたしの知っているお前の口から出る偽りを。


ただ繋いだ手を離すだけ。
それで全てが終わる。

ゼロスの幸せも手に入るだろう。
わたしと共に居ても幸福にはなれない。



「わたしが人並みの幸せを得ようなどと思うこと自体が罪だな」

何度も何度も繰り返した。
その度に同じことを思う。

わたしには幸せになる資格がないのだと。
積み重ねた罪が許すはずもない。



言葉はあまりに軽い。
信じる度に臆病になる。
信じる度に愚かになる。








咎人には似合いの末路だ。
繋いでおけなかったのは、わたしの弱さ。
ただ、それだけ。




「神子、どうか幸せに」

口先だけの軽い言葉。
願うはずもない、最後の言葉。













end




ゼロスが浮気して別れるって言う……

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