セイギの声が消えるころ

□許されざる人
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傍に居るだけで幸せだった、だから夢中で追いかけた。
あんな結末になるなんて思わなかったから。

兄の死体を見た瞬間、私の心は凍ってしまったんだろう。
きっとおかしくなってしまったのだ。






「なぜ止めてくれなかったの!?
あなたなら、あなたなら兄さんを止められた!
なぜあなたが生きていて、兄さんは死んでしまったの……」


毒を、吐いた。
醜い、汚れた言葉を吐いた。
















ティアはぼんやりと目の前の彼を眺めていた。
ただにこやかに笑う彼を。
なぜ、どうして?抵抗もしない、罵りもしない、こんな私を。
貴方は今何を思っているの?


「ガイ……」

「ん?」


ただガイはいつもと変わらない表情を浮かべるだけ。
ああ、これはただの八つ当たりだ。
自分の最愛の兄が死んだ。それは誰にもどうする事も出来なかった。分かっている。それでも。

兄の主だった彼なら、もしかしたら、もしかしたらって……。

平和になって、けれどルークも帰って来ない。
彼女は大事なものを一気に失ってしまった。
どちらかだけでも良い、戻って来て欲しい、そんなことを願わずにはいられない。


「ティアは我慢しすぎなんだよ」


優しさに甘えている。
彼だって辛いのに。失ったのは一緒なのに。

助けられて、そればかりで。
苦しいから、吐き出したかったから、ガイを傷つけた。


「ごめんなさい……私、本当に最低だわ」

「良いさ、俺は本当に、」


ぞくり。
空色の瞳が綺麗で冷たい。
哀れみを持った瞳。自虐的な、深い闇。


「生きる価値が無いからね」



最期まで傍に居たであろうガイラルディアの思い出。
それがどれだけ彼を苦しめたのだろう。
戻らないものに縋る、それは一番辛い事だと知っているのに。

「どんな理由をつけたって俺はヴァンを裏切った。
それがどれだけヴァンの心を傷つけたか……」

俺に依存して、護ってくれた俺だけの騎士。
その心は全て俺のものだ。
その傷が許せない。傷をつけた人が許せない。

空色が曇っていく。
独占欲と言うにはあまりにも禍々しい。


「おかしくなったのは俺の方さ。
ヴァンが居なくなった瞬間から、最期に俺の名前を呟いた時から、俺はもう前には進めない」


<ガイラルディア様>


響き続ける。
その声、その思い。
俺だけの騎士、俺だけの、俺だけで良いんだ。
お前を許すのは、俺だけで良い。


「ティア、どうせ俺を傷付けるなら、さ」


つきつけられた現実を俺は歩いてはいけない。
誰も居ない、もう、駄目なんだよ。
暗闇で、絶望で、凍り付いた心じゃ何処にも行けない。
愛しい彼の元にさえも。










「殺してくれれば良かったのに」















end








病みガイ様。きっとずっと悩んでるんだろうなぁ。

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