セイギの声が消えるころ

□愚か者と蝶
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焚き火の音がする。
ぱちぱち。ぱちぱち。
ただそれだけ。
寝ずの番をしているはずの彼は一体何処に行ったのだろう。
ジェイドは溜め息を吐いた。


彼は信用ならない。
そう自分の勘が告げている。
飄々とした態度も、何処か遠いところを見ている瞳も。
心を許すには弱すぎる。


「まぁ貴方にも色々あるんでしょうけど、個人的な行動は慎んで欲しいものですね」

いつの間にか後ろに居た青年に彼は振り向きもせずに言い放つ。
声をかけられたら青年はただ笑うだけ。
それが更にジェイドを苛立たせる。


「何がそんなに楽しいんです?」


「ん……こうやったら旦那が俺を気にするの分かってたからさ」

当然の様な仕草でガイはジェイドの隣に座る。
ほんの小さな動揺が走った。

なる程、この青年の言うとおりだ。
ずっと目で追っていた。
信用ならないと理由をつけて。先程も彼のことが気になったから寝付けなかった。

頭から離れない姿。
可哀想な子供。
明るく振る舞い、余計に影が目立つ哀れな子供。


そんな子供を、私は。







「否定はしませんよ、実際気になって此処に来た訳ですし」


「さすが旦那は優しいな。
これからも俺のこと見ててくれよ……道を間違わない様に」


「貴方が思う正しい道はきっと世間では愚か者しか通りませんよ」


「構わないさ、俺は俺の目的が達成出来ればそれで良い……だから」

触れるだけの口づけはただ冷たい。
誰も知らない、知る由もない秘め事。

全てはその道のために。





「私もまだまだ若いですねぇ……色仕掛けに引っかかるとは」


やられた、とジェイドは苦笑いをするしかなかった。
まんまと彼に乗せられた。
ずっと狙われていた、共犯者にするために。
彼の仕草全てが仕組まれたもの。


愛していると自覚させられてしまった。
もう戻れない。


「何のことだか分からないな、ジェイドは俺の事が好き。
俺もジェイドは嫌いじゃない、それだけだろ?」


いつもの人懐っこい顔が娼婦の様に艶やかに歪む。

蝶に捕らわれた愚か者はただその体を抱き寄せるだけだった。













end







小悪魔ガイ様。清純も良いけど小悪魔も良いと思います笑

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