セイギの声が消えるころ

□悠久少年
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呟くつもりはなかったし、呟いてはいけないことだった。




彼らは知らない。
少年がどれだけの苦痛を伴いあの選択をしたのか。

彼女らは知らない。
少年がどれだけ自分の無力さを憎み殺そうとしたのか。

人々は知らない。
英雄と呼ばれただけの少年が自分の幸せの為に世界を支配しようとした訳ではないこと。

私たちは知らない。
知らない、ふりを、している。







彼の背中から突き出る光が、ただゆっくりと戻るのを見ていた。
動けない。見つめるのが使命だ。

金髪が美しい。
微笑みだけが貼り付いて、それ以上のものは見えなかった。
赤はゆっくりと白を汚す。




「これで良いんだよ、クラトス」


優しい声。
何度その頭を撫でただろう。
ただのハーフエルフだった時も、ただの英雄だった時も。
そして今、も。


「ミトス……」


「クラトスは悪くないクラトスは気にしないで良いんだ、だって」





……こうやって帰って来たんだもの。










地面に這い蹲るのは一度信じた人間たち。
もう一度だけ視線を移し、それっきりだった。

優しさだけだ。この人間たちにあったのは。
力もなく、幼稚な理想を語りそれを正義だと言う。
それで救えた人と救えなかった人、どちらが多いのだろう。


「お前たちは見誤っていたのだ、この世界の意志を」




世界は再生される。
紛れもない、英雄の手によって。
世界は何も変わらない。
英雄は悠久に存在し続けるのだから。



「クラトス、大好きだよ」










ああ、結局私はこの幼い少年を見捨てることなど出来なかったのだ。














end



まさかの裏切り…これもありかなと思う…

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