セイギの声が消えるころ

□瞳に映るなら
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近くに居るのに触れられない。
実際には触れている、触れているはず、なのに。
その事実は今でも彼を縛り付けている。

こんなに傍に居るのに、気付かないのは仕方の無いこと。
視界は今日も開けている。




あの最期からもう5年。
アッシュは生きている、と本人だけが知っている。
肉体はルーク、人格もルーク。
アッシュに許されたのは彼の片隅の狭い場所に居ることだけ。
体の持ち主であるルークにすら気付かれない程小さく小さく揺らめく炎。

彼の瞳から見える世界は過去の傷からようやく立ち直ろうとしていた。
誰も彼も幸せそうに微笑んでいる。








「ルーク、久しぶり」

愛して止まない人もただ安らかな表情で立っていた。
その姿をぼんやりとアッシュは見つめる。それしか出来なかったから。


「ガイ!元気だったか?」

「もちろん、ルークも元気そうで何よりだよ」

ただ二人の会話に耳を傾ける。
社交辞令の様で、親友の様で、恋人同士の様で。
苛々する。誰も伺い知れない深淵で、誰も触れられない片隅で。
何時まで続くか分からない孤独。
俺は此処に居る。レプリカの中に、ずっと、ずっと。
それなのに何も出来ない。これが神の裁きとやらなのか?




「そういえば、ルーク」

ルークの体はビクンと一回大きく揺れ、その反射の意味も分からない。
寒気がした気もするが、気のせいだと思いたかった。



「な、なに?」

「言っておきたいことがあるんだ」

凍り付きそうな瞳がルークの体を射抜く。
確信出来る。ガイは、俺の存在に気付いている。
それも絶対的な誰かへの悪意を持って。
今告げている言葉はレプリカにでは無く俺に向けてであると言うことも分かった。


「俺はずっと待ってる」

「……?わ、分かった……?」

「ルークには分からなくてもいいのさ」

「え、だって俺に言いたい言葉なんだろ?」

「世の中には後で知った方が良いこともあるってこと」

「ふーん?」

「お前だけだよ、俺が認めたのは」


ルークじゃない。
許したのは、アッシュだけ。もちろん愛しているのも。
だから早く戻って来い。ルークじゃなくて、お前に会いたい。
俺を愛してるならそんなレプリカの体奪ってみせろ。
何時まで独りにさせとく気だ。


射抜かれたまま、アッシュはただ何度も誓う。
絶対に、絶対に。
この体を自分のモノにしてみせる。
まだ幸せになれていないガイのために。
このレプリカの存在を消し去っても、誰を不幸にしても。

ガイが幸せなら、それで良い。
ガイが俺を求めている。だから応える。












「……分かって、いる」

一瞬、彼は微笑み、今はお互いにそれで充分だった。













「あ、あれ?俺なんかぼーっとしてた……」

「疲れてるんじゃないのか?」


必ず。必ず。
お前を取り戻すよ、アッシュ。



















end



誰が一番可哀想かってルークが…!気の毒すぎるかも

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