セイギの声が消えるころ
□会いたい
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「……若い者達は元気だな」
「まったくだ」
綺麗に磨かれた窓の外には、水着姿ではしゃぐ数人の影。
ホテルの空調が整った部屋で、クラトスとリーガルは静かに溜め息をついた。
この炎天下の中よく走り回れるな、熱中症にならないのか、無理出来るのがやっぱり若さなのか、などと二人は悶々と考え込んでしまう。
一緒に行動していても、楽しいがやはり気疲れもある。
小言が過ぎたり、子供扱いしてしまったり。
彼等がきちんと自分の思考で行動していることは理解しているのに、何故か一言多くなってしまう。
「……良いな、若いと言うのは」
クラトスは独り言の様に呟く。
彼等にはまだ取り戻せる、沢山のものがある。
失うことや終わりがあることも分かっているだろうけれど実感はそれ程ないだろう。
一度手を離したらもう二度と最愛の人には届かないこと。
どれだけ悔んでも取り戻せない永遠があること。
人はそれぞれ取り返しのつかない罪を背負っていること。
純粋と無知はそれほど遠い存在ではないと言うことも。
あの日失った彼女の微笑みは、脳裏に焼き付いたまま仄暗い夢を見せる。
それはきっと向かいで優雅に紅茶を飲んでいる彼も同じだった。
エクスフィアの悪夢。
彼の愛しい少女は、もうこの世には存在していない。
それはひいてはミトスを止められなかった自分にも罪はあると言えなくもなかった。
アンナを奪われたあの時、何もかも失ったと思ったあの日。
考えることを放棄してしまった自分。
あの時、もしも心折れずにいられたなら哀れな青年と少女を救うことが出来たかもしれないのに。
「クラトス殿?」
怪訝そうにリーガルはクラトスの顔を覗き込む。
きっと暗い顔をしていたのだろう。この空間には似合わない表情を。
「いや……海が綺麗で見入ってしまっただけだ」
「そうか。美しくて手が届きそうもないな」
このパーティーの中で一番気が合うのは年齢が近いだけではない気がした。
その少しの苦い感情に戸惑っている。許されないことも、愚かなことも。
ただ一つ分からなかったのは、二人とも同じ感情を持っていると言うこと。
それを表現する気も伝える気も二人にはなかった。
受け入れられる筈がない。
幸せになれる筈がない。
罪人は、咎人は不幸であることが償いなのだから。
悪戯に命を奪われた二つの魂。
私たちが救えなかった、一番に幸せにしてやらねばいけなかった命たち。
ああどうか許さないでくれ。
幸せになって、だなんて言わないで欲しい。
忘れたくない。この感情が薄れることなんてない。
世界で愛したのは彼女ただひとり。
だからこの馬鹿げた思いを。
嘘だと、そう、一言で良いから、耳元で囁いて。
もう一度会いたい。貴方にだけに。
end
リーガルとクラトスは思い合っているけどアンナとアリシアが居るから絶対に結ばれない予感。
アダルトな雰囲気希望!笑