セイギの声が消えるころ

□幸せの国
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幸せになりたかった。
誰も傷つけずに、美しい女神の様に慈愛に溢れた心で。
自分だけが幸せになって、他の奴を見下したかった訳じゃない。

「ほんとうに?」

どんなに傷つけられたとしてもそれを許せる様な人間になりたかった。
綺麗だと、その心には敵わないと、そう言われたかった。

「ほんとうに?」

声が聞こえる。
まだ幸せだった頃の、この幸せが永遠に続くと思っていた頃の声。
少し高く、今の自分が聞くと恥ずかしくなる様な声。
過去の、自分。


ガイラルディアの花が揺れる。
あの日、罵声と暴力で全て消えた世界に咲く花。
まだ咲き続けているのだろうか?













「ガイ!どうしたんだよ!?」

強く肩を揺さぶられる。
どうやら少し意識を飛ばしていた様だ。
そんなに揺さぶらなくても大丈夫だと、ガイはルークの両手を優しくよける。

「悪い、ちょっと考え事してたんだ」

平和になった世界で、二人は久々の再会を果たしていた。
たくさんの傷から立ち直る世界。
何もかもを過去にする世界。
あの痛みも、あの絶望も過ぎてしまえば美しい。
そう言われている様で、ガイは少しだけ胸元を押さえた。

許せないと、そう思っているのはもう自分だけなのか。
皆、幸せそうで、その幸福を奪う権利は自分には無い。
だったらこの苛立ちは誰に向ければ良い?

ああ、声が。
呼んでいる、ずっと、俺のことを。
お前だけ幸福になるのは許さないと……過去が縋って来る。


「なんか……ガイ、変わったな。
綺麗になった。前よりももっと中性的になったし、髪も伸びてるし」

「はは、それはありがとうって言うべきなのか?」

「褒めてるよ!……それにしても、まだ剣、握れないのか?」

「相変わらずさ」

戦いが終わって、ガイは剣を握れなくなった。
心的要因であることはすぐに分かったが、どうにかしようとは思わない。
もう終わったのだから。この世界は、俺をもう必要としていない。

運動も、必要最低限しかしないし、髪も伸ばしたまま。
もうあの宝剣を握ることはないと思う。俺はもう戦えない。
平和のぬるま湯につかったまま。
同胞の敵をとれないまま。どうして生きていられるのだろう。

痩せてゆく。心も体も。
それで良い、幸せなんて、無理なのは知っているから。
願う自由はある。でもそれだけだ。


「大丈夫!ガイがもし危険な目にあったら俺が守るよ。
だって俺、ガイのこと……!」

「知ってるよ。そんな大声で言わなくてもさ」

だから言わないで。
好きとか愛してるとか、聞きたくない。

抱き締めないで、これ以上ぬくもりは要らない。
冷たい棺に眠る姿。それがこの人生の終着。




「好きだよ、ルーク」

痛んでいた左胸が激しく跳ねた。















end



病みガイ様好きー。
ルークはそれに気付かない程純粋だと良い。
剣を握れない設定のガイ良いな…笑

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