セイギの声が消えるころ

□残滓
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印象に残る姿。
褐色の肌で、堂々とした佇まい。
風格は王としてのそれで見る者の視界を奪う。
住む世界が違う人。
俺がああなりたかったと思える人。
陛下は、そんな人だ。







「ガイラルディア、お茶。なるべく濃いめで」

「……まさかそれを頼む為に俺を呼んだんですか?」

ガイは何度目かの溜め息を吐いた。
館を構えてからこの人は毎日の様に使いをよこす。
急用かと思い急いで駆けつけてみれば、こんなことばかり頼まれる。
素早くティーセットを用意しながら青年はもう一度溜め息を吐いた。

一応は陛下の命令である。
どんな要望でも応えなければいけないと、真面目な彼は完璧に紅茶を注ぎピオニーの机に置いた。


「まったく……陛下、一体なにを考えてるんです?」

「ガイラルディアのことに決まってるだろう」

「そうですか」


この会話も何時ものこと。
何も深い意味はない、言葉遊び。
キラキラ光る水しぶきが美しくて青年は目を細めた。

本当は分かっている。
陛下が気を使ってくれていること。
俺は、ガイではなくてガイラルディアだと。
マルクトの貴族でホドの領主。
決して使用人などではない。
頭を垂れて生きて来た訳じゃないんだと。


「ガイラルディア、お前が居るべきなのは此処だ。
ずっと悪い夢を見ていたんだろうが、此処だけがお前の居場所だ」

ただじっと言葉に聞き入る。
随分と長い間、悪い夢を見ていた。
けれど今目覚めて在るのはこの場所。
これ以上何を望む?こんなに幸せなのに。
無い物ねだりなんて出来ない。


「もちろんです陛下。
大切なのは、今ですからね」

その笑みは何処か翳り、けれどピオニーは見ない振りをする。


「ガイラルディア、共に生きてくれるだろう?」

縛り付ける魔法の言葉。

これは我が儘。
ガイラルディアに此処に居て欲しい。
命尽きるまで傍で咲き続け、枯れてもなお美しく散る。
それまでずっと離さない。
どんな権力、どんなエゴを使っても。


「俺は陛下の傍を離れませんよ」

その言葉を聞き続けるために。







マルクトを出たいと、ガイは今日も言えないでいる。
拘束する為だけの言葉を、ピオニーは今日も吐き続けている。















end





ピオニーはガイが好きすぎると良い。職権乱用!
ピオニー相手だとガイは素直な良い子になりますね笑

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