セイギの声が消えるころ

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暗い暗い世界。
過去に縋るのがどれだけ愚かなことか、分かっている。
けれどそうしなければ生きていけなくて。
きっと、それすら許されない人たちが居たことを考えればまだ自分はマシなんだろう。

あの日消えた命たち。
両手で抱えきれない、愛と悲しみを残して消えてしまった。
尊い犠牲と言うには重すぎる。




それでも正義だと、言うのですか。
救われなかった者に、そう言えるのですか。
この俺にその偽善を振りかざすのですか。












「ガイラルディア様?」

ヴァンは遠慮がちにガイの姿を見た。
椅子に座ったまま、真っ青で恐怖に歪んだ表情で眠る我が主。
今のままでは救えないと分かってはいるけれど。
その胸に抱えたままの苦しみを少しでも癒せたなら良かったのに。

少しだけ後悔している。
この優しい修羅の前に手を差し伸べたこと。
もしもあの時、何も言わず突き放していたならきっとこの青年はずっとルークたちと共に居れた。
それは幸せと呼ばれるもので、世界が許した彼の存在そのもの。
金色の髪を梳いて、ぼんやりと見つめる。


「……、あねうえ……っ」

そう呟き空色の双眼が開かれた。
途端に激しく咳き込み、口元を強く押さえる。
ガイの背中をさするヴァンが見たのは、真っ赤な幾筋の何か。
分かっているけれど分かりたくない。
尋常ではない量の血は白くなったガイの肌によく似合っていた。
枯れる前の刹那。彼に与えられた時間はとても、とても短い。


「ガイラルディア様、何時からですか!?
何時から、こんな、こんなに……」

ヴァンは全てを隠す様に強く抱き締める。
もう何も零れ落ちない様に、見失わない様に。
ガイは何も言わずに目を伏せる。



神よ。
俺に残されたものを奪わないで。

「俺にはもう時間が無い、それは自分が一番分かってる」

「じゃあ僕と一緒だね」

偵察から帰って来たシンクは何の躊躇いもなく、真っ赤に染まったガイの唇を奪う。
鉄の味しかしないけれど、それでも何処か甘い気がした。


「此処まで来たら最期も一緒が良いな、なんてね」

「……ふざけんな、誰がお前の自殺にガイを付き合わせるか」

後ろから追いかけて来たアッシュは強くシンクの肩を掴み睨みつける。
少年は楽しそうに笑い、彼の手を弾きガイの頬を撫でた。
血の気がない人形の肌。
ああ綺麗、アンタの為ならどんな汚いことでもしてあげる。
だから笑っていて欲しいよ、アンタにだけは。


「悪くない、皆で消えるのもそれはそれで楽しいさ……そうだろう?ヴァンデスデルカ」

もう一度強く抱き締めて。
ぬくもりが消えて、取り戻せなくなる前に。

ヴァンは曖昧に微笑んで、指でガイの口元を拭っただけだった。
















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ヴァンをメインに書いたつもり…

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