セイギの声が消えるころ

□冬と秋
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葉が色付き散る頃。
ユアンは世界樹の下で空を見上げていた。
青く透き通る天上はずっと変わらないままで、それは自分も同じで。



心地良い風。
此処に四季は存在しないが彼女が運ぶ空気は清々しく、そしてあたたかい。

「あらユアン、また空を見ていたの?」

美しい新緑色が視界を覆う。
一度話せば皆が彼女のことを好きになる。
優しさと生命力溢れ、誰からも愛される人。
まるで麗らかな春。

マーテルが春なら、ミトスはどうだろう。
道を違えてからはあまり笑わなくなったが昔は太陽の様に笑っていた。
全てを焼き尽くし力強いもの。自分を守る術を知らず燃えてしまう。
けれども惹かれずにはいられない。


「ふむ……夏だな」

「あらあら、一体何のことかしら?」

「いや、ミトスは季節に例えるなら夏だと思ってな」

「ふふ、ユアンは面白いことを考えるわね。
なら私はどう?」

「春だな。春以外に有り得ない」

「……なら、クラトスは?」

その言葉は少し悲しみを帯びていた。
鷲色の瞳を思い出し、不思議と心が締め付けられる。
愛し合っていたはずなのに。
ユアンの心はもう此方に向くことはないのだろう。
それでも彼女はクラトスが憎めない。
マーテルにとって素敵な仲間。それ以上でも以下でもない。
思い出はちらついて、すぐに消えた。


「秋、だな」

今はまだ遥か彼方。
密やかに色付く葉と想いはきっと触れ合うことが出来る。
憂いは美しさを際だたせ、最期には滅びてしまう星の様な。
広い宇宙を漂い続けて還る場所は此処だけ。
クラトスは優しく寂しがり屋の秋。
ずっと隣に居たのだから分かる。
彼の強がりも何もかも。


考えに耽るユアンを見てマーテルは笑う。

「もう!妬けちゃうわ。
ユアンは冬みたいな人なんだから……」


その言葉にユアンは心外だと言わんばかり眉を顰めた。
それを見てもマーテルは微笑むだけ。


春を守る冬。
冷たさは全てに安らぎをくれた。
ありがとうと、もう口に出来ない愛の言葉。
ただ切なく空を見上げるだけで。




「クラトスの馬鹿」

そう呟いてみせた。


















end


マーテル好き。
ユアクラ久々ークラトス出てない笑

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