セイギの声が消えるころ

□世人は笑う
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小さな小屋。
俺が最愛の人の為だけに建てた場所。
クラトスは何時も椅子に座り本を読んでいる。


小さくドアの開く音が響く。
その隙間から僅かな光が差し込んだ。


「ああ、ロイドか」

硝子玉を覗き込んでいる様な感覚。
透き通って、それ以外に何も見えなくて背筋が凍る。
オリジンを解放して、世界を救ってクラトスは変わってしまったと思う。


「……頑張りすぎたんだよな」

小さく呟く。多分聞こえているんだろうけど。
全く反応を示さない、ただ静かに本を読み続けている。



悠久にも似た時間をひとりで生きて、孤独に喘いで、何一つ忘れられない。
美しい蒼を纏った時、ミトスを止められなかった時、最愛を失った時、その全てがクラトスを縛り続けている。
きっと自分が死んだ後もずっと永遠に。

ミトスが消えた時、彼は微かに笑っていた。
漸く救われたかもしれない哀れな少年の魂を思っていたのだろうか。
止まらない涙はきっと無意識で祈りの両手は強く握り締められて。

まるで一枚の絵みたいに。


「私は何故生きているのだろうな。この世界に私はもう要らないだろうに……」

それはきっと独り言。
けれど少年の心には強く突き刺さり、抜けず、深くまで侵蝕してゆく。

俺じゃ生きる意味にはなれないのか?
俺の生きる意味はクラトス、アンタだけなのに。

こんなに近いのに、こんなに遠い。
触れているのに、確かに此処に居る筈なのに、どうして?

「……父さん」

触れた頬は冷たすぎて、まるで死んでいるみたい。
もしかしたらもう死んでいるのかもしれない、馬鹿みたい。


「ロイド、ありがとう、今はそれだけ言わせてくれ」

遠い記憶?本当は?どっち?





太陽に反射し意識が浮上する。
ロイドは小さく自嘲した、ああ本当に馬鹿馬鹿しいよ。
太陽が沈んで月が眠って何度も過ぎ去った日々。
もう無い筈のあの小さな世界。椅子に座り本を読むあの人の姿。
壊したのは自分自身だった。
壊れていたのは俺自身だった。
綺麗な瞳は悲しそうに伏せられていて、それでも笑っていた。
消えた世界。
まほろばの世界。
何処からがユメの続き?






分からないからもう一度瞳を閉じる。
手のひらに残る冷たさだけがただ真実だった。


























end


ヤンデロイド…笑

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