セイギの声が消えるころ

□散り華より美しき
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触れた肌が嘘だったとして、誰が俺を責められるのか。
忘れたくない離れたくないと何度も叫ぶ。
それでも時間は過ぎて、想いは移ろう。
繋いだ手が緩んだ瞬間。


「……そうか」

ピオニーは玉座でその報告を聞いていた。
水の音だけがその空間に響き、彼を虚しくさせる。
華は散る、命は枯れる、だからこそ美しい。
少し泣いた彼の姿と揺れる火の頼りなさ。

不幸だったのかと自分が問う資格は無い。


あの日、瞳の奥に俺を見つけたかった。
青すぎる蒼に寒気しか見つけられなくて、俺はお前の奥底に触れていなかったのだと突きつけられた様で。

「アイツは最後まで俺を愛してくれなかったな」

愛しく決して手放したくなかった華。
約束なんて不確かなものは要らない、それ以上の確信が欲しかった。
ガイラルディアは笑うだけで何も見せてはくれない。
それでも良いと、思っていた。
傍に居てくれるのなら閉じ込めておけるなら、俺は。
どんな神をも殺しただろうに。






「此処にはもう戻らないそうですよ」

ジェイドは報告を終えるとじっとピオニーを見つめた。
その視線は遠慮の無い苛立ちが含まれている。
可哀想なのは彼ではない。無論私でもない。
漸く掴み取った平穏を愛で壊された人。
自由を奪われ羽ばたけない様に翼を折られて、それでも愛そうとした人。
自分を壊してまで全てを捧げようとした人。

籠の中の鳥は飛び方を忘れられなかった。
見える自由に手を伸ばさずにはいられなかった。
誰も彼を責められない。
誰もその資格を持ちはしないのだから。


「ガイを傷付けて楽しかったですか?
陛下の想いはガイには重すぎたんです、分かっていた筈ですよね?」

「分かってたさ、だが止められない感情もある」

「それは貴方の勝手でしょう。ガイには何の関係もないことです。
……貴方は皇帝、全てを手に入れる力も資格もある。
けれどそれだけなのだと、どうして分からなかったのですか」

人は誰かの心を操作する術を持たない。
叶えられると思ってしまった慢心はジェイドを更に苛立たせる。

幸せになって欲しかった。
どんな場所でも、どんな生き方でも。
罪人だと嘆く肩を抱いたのは皇帝。
もう自分は隣に居れないのだと悟った。
それでも、どうしても幸せにしてあげたかった。
ジェイドは唇を強く噛み俯く。
ピオニーには勝てないと分かっていたから。







その光景に一瞥もくれず、彼は思う。
一度手に入れたものを失うのは辛いことで。
もう二度と手に入れられないなら。
気持ちはお前にやろう、しかし体は俺のものだ。
脱け殻でも何でも愛してやる。


「……ジェイド、皇帝勅命だ。
アイツを連れ戻せ、抵抗するなら多少壊しても構わん」

「嫌なんて言わないだろう?」

「お前はこの皇帝の信頼する部下だからな」





閉まってはいけない扉が、音を立てて光を遮った。














end


















ピオガイなのにガイが全く出てない!

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