舞葬

□一章
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<人は弱く業の深い生き物よ。
苦しみ時のみ誰かに縋り、平和が訪れればお前達を簡単に切り捨てるだろう>


世界を恐怖に陥れた魔王の最期の言葉。
強い眼差しで消えた。
嗚呼、あの時は否定出来た。
人は弱いかもしれない、けれど強くなれると勇者らしい言葉を吐けた。
なのに、今は。
今は、もう言えない。

世界が荒れていた時には気付かなかった事が沢山ある。
平和になったからこそ目に入る汚さもある。

罵りの声は、日に日に増して。
これが護りたかったものの真の姿ならば、俺はなんて愚かだったのだろうか。


「レンク、どうしたの?」


金の髪を優しい風に遊ばせ、レイアは訪ねた。
城の中にある中庭は今日も美しく花が咲き乱れている。


「何でもないよ、ただ昔の事を思い出していただけさ」


もう一年も前になる。
あの頃彼は世界の全てを背負った誇り高き勇者だった。
立ちはだかる魔物を倒し、傷付きながら魔王の元まで辿り着き、そして勝利したのだ。

眩い記憶に、英雄伝になって当たり前の旅路。
それなのに。


「…私は弱くて何の力にもなれなかった。
それは今も、ね」


少女は悲しそうに眸を伏せ、追想する。
初めは皆喜んでくれた。
勇者様、勇者様と歓声を上げて。
馬鹿馬鹿しい思いに捕われるまでは。


<世界を救った勇者は、人ではない>


確かにそうだ。
彼は人ではなく神の造った兵器。
だから何なのだろう。
裏切るとでも、言いたいのか。


「ねえレイア、昔、この世界に英雄が居たんだって」


レンクは静かに彼女の手を握り語る。
何の感情も込めず、事実のみを伝える様に。


「彼は俺みたいに世界を救って皆から感謝された」


「でもそれから一年もしない内に彼は死んだ」


「護った彼等に殺されたんだ。
悪魔だってね」


哀しいよね、と彼は笑う。
眸は闇色。
彼女は何も言う事が出来なかった。
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