記念

□2012Dグレ
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周りから言われて、自惚れていた事実は否定しねぇ。
…だが……。

『…お願い神田君……どうか、私なんかを好きにならないで…。』

こんな拒絶を受けるとは、露ほども思っていなかった。
お前のこの言葉で、動けなくなるほどショックを受けて。
フラれたと思うには決定打のない言葉だったというのに。
想いを告げる前にそう言われ、ショックを受けた俺にはそれに気付く余裕などなかった。
…その言葉に、どんな真意が隠されていたのかという事にも――。




幸せの始まり




「「「………あっ。」」」

アレン、リナリー、ラビの3人は、食堂に入るなりある一角を見て声を上げた。
3人の視線の先には、不機嫌さを隠しもしない神田が蕎麦をすすっている姿がある。
3人は顔を見合わせ、嬉しい気持ち3割、ガッカリした気持ち7割でそちらに足を向けた。

「……1人…なの?」

「……………見りゃわかんだろ。」

近くまで来たリナリーがそう声をかけると、ドスの利いた声で神田が驚きもせずそう答える。
恐らく、気配で3人が近付いてきていた事に気付いていたのだろう。
3人は顔を見合わせ、神田相手に珍しく同情するような悲しげな表情を浮かべた。

「…ダメだったのね…。」

「絶対うまくいくと思ったんだけどなぁ…。」

「まぁ、その…元気出してくださいよ。」

慰めるかのような声音に、神田は微かに青筋を浮かべて3人を睨み付ける。
そして先ほどより更にドスの利いた声で、静かに3人へと口を開いた。

「何が『絶対あいつも好意を持ってる、だったら男から想いを伝えるのが当たり前だ』だ…!伝える前に玉砕したじゃねぇか…!!」

「え…伝える事もさせてくれなかったの!?」

怒り心頭の神田の言葉に、リナリー達は驚いて思わずガタンと席を立つ。
3人は心底驚いた様子を見せ、神田の顔をジッと見つめた。

「…もういいだろ。」

その視線に居心地が悪くなったのか、神田もまたガタリと席を立つ。
日頃無表情、無感情と言われる神田であっても、やはり好意を抱いていた女性にフラれた事はショックが大きいのだろう。
ソッとしておいてやった方がいいのだろうが、それでも放っておけないのがこの3人。
3人は揃って神田の腕や肩を掴み、神田を無理やり引き留めた。

「っ何なんだよ!?離せ!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!詳しく説明して!」

「ミランダが人の話も聞きもしないなんておかしいですよ!!」

「ここでユウが諦めちゃったら、真相がわかんなくなるさ!」

そして神田を案じて首を突っ込む3人…というわけでもない。
3人はただ、ミランダが何故神田の話も聞かずに神田をフッたのかが気になっただけだった。
それに気付いた神田は、ブルブルと震えて鬼のような形相を浮かべる。
そしてその怒りを発散するように、大きな怒鳴り声を上げた。

「真相もクソも、あいつは俺を好きじゃなかっただけの話だろぅが!!!離しやが…、…!!!」

ここが食堂だという事を忘れ、大声で自分がフラれた事実を叫ぶ神田。
だが離せと言う前に突き刺さるような視線の数々を感じ、さすがの神田も顔を真っ赤にして押し黙った。
何故、フラれたというのに更に赤っ恥を掻かされなければならないのか。
ヒソヒソと話す声に加え、四方八方から同情するような眼差しが向けられる。
スーッ…と神田の表情から感情が消え失せ、大気が揺らぐ程の気が神田の体から発せられた。
…あ、キレる。
そう思った3人は瞬時に神田を取り押さえようとイノセンスを発動させ、応戦態勢に入る。
だが、神田が怒りのままに暴れ狂う事はなかった。

「ユ、ユー君!い、今、聞き捨てならないセリフが聞こえてきたけど…ミ、ミランダにフラれたというのは本当かい!!?」

自称父親と名乗る、神田にとって最も厄介な相手…元帥であるティエドールがその場に乱入してきたからである。
ティエドールは滝のような涙を流して、ガクガクと神田を揺さぶり始める。
神田よりもさらにばかでかい声で、神田がミランダにフラれた事を叫んだティエドールの声は、食堂の隅から隅まで行き渡った。
よって神田は、食堂にいた人全てから同情めいた視線を投げかけられ…。
ティエドールが事情を話すまで離さないだろう事も相まって、神田はガクリと項垂れて渋々事情を説明する羽目に陥った。


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