記念
□2012FF
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…いつも元気に笑っているお前の、あんな姿を見たからだろうか。
夕日に照らされて駆け出したお前が儚く見え、どこかに消えてしまいそうに思えて…。
気付けば俺は、お前の腕を引き寄せていた。
いとも簡単に、腕の中に収まる小さく華奢な体。
何があっても守りたい、と。
強く強く、そう思った。
…そう思ったのは、きっと――。
芽生え
フースーヤとゴルベーザの後を追って数日――。
月の中心地に巣食う魔物達の強さに苦戦を強いられ、セシル達は中々2人に追い付けないでいた。
先に進めば進むほど道は複雑になり、敵も強大になっていく。
ろくな休息も取れない強行軍は、最早限界だった。
「…っ!!?リディア!!!」
レッドドラゴンとの戦闘の最中、急にリディアが膝をついて動かなくなったのだ。
そんなリディアを見逃すはずもなく、レッドドラゴンがリディアを踏み潰そうと前足を高く上げる。
カインは即座にリディアへと駆け寄り、リディアを抱き抱えてその場を飛び退いた。
ザクッ!!!
「…っ…!」
踏み潰される事態は避けたものの、リディアを抱えたままで攻撃を避けきる事は出来ず、カインの腕に深い切り傷が生じる。
だがカインは切り傷には全く動じず、無防備に伸びたレッドドラゴンの前足を装備していた槍で突き刺した。
「ピギャアアァッ!!!」
堪らず、レッドドラゴンが後退していく。
その機を逃さず、ローザが弓矢でレッドドラゴンの目を射抜いて動きを止め、セシルとエッジがレッドドラゴンの胴体に剣と刀を突き刺した。
2人の刃は致命傷を与え、レッドドラゴンが絶命の雄叫びを上げて力尽きていく。
セシル、エッジ、ローザの3人はすぐさま踵を返して、2人の元へと急いだ。
「大丈夫か!!?」
「おい、急にどうしたんだよ!?」
「カイン、貴方腕に…!!」
グッタリとしたリディアと腕に深い傷を負ったカインを見て、3人の顔色が悪くなる。
すぐさまローザが回復魔法を唱えようとするが、カインがそれを手で制した。
「俺は後でいい!!先にリディアを…」
「………カイン……。」
カインが声を荒げると同時に、震えた声でリディアがカインの名前を呼ぶ。
4人がハッとリディアに視線を向けると、虚ろな眼差しでリディアがカインの腕を見つめていた。
「……ごめん……あたしの、せいで…腕……」
「!?リディア!?リディア!!」
「…!酷い熱…!!」
謝罪の言葉を途中で途切れさせて、カクリとリディアの意識が途絶える。
ローザはすぐさまリディアの容態を診て、熱の高さに眉を顰めた。
「すぐに魔導船まで引き返そう!エッジ、リディアの近くに寄ってくれ!!」
ローザの言葉を聞いて、セシルが一瞬の迷いもなくそう決断する。
フースーヤとゴルベーザの事は気がかりだが、あの2人…特にゴルベーザは強い。
ここまで来て追い付けないという事は、順調に先に進んでいるはずだ。
セシルは無理やりそう思い込み、エッジがリディアの側に来たのを見計らって、脱出魔法を唱えた。
一瞬でフースーヤの館まで戻ったセシル達は、軽く傷の手当てをしてすぐさま魔導船に向かって歩き出す。
腕の傷に布を巻いて止血したカインは、ソッとリディアを背負ってなるべくリディアに負担が行かないよう静かに歩き始めた。
「ごめんなさいカイン…回復魔法を使うだけの魔力がもう残ってなくて…。」
「いや、俺の傷は大した事ないから構わない。それより、リディアは…?」
「…多分魔力の使いすぎと、疲労が溜まっていたせいで発熱しちゃったんじゃないかしら…。敵が強すぎて、リディアの魔法に頼りっぱなしだったから…。」
ローザの謝罪に首を振り、カインがローザにリディアの容態を問う。
ローザはソッとリディアの顔を覗き込み、慎重な手付きでリディアの目を診て、喉元に手を当てたりしてリディアの容態を確認した。
カインは辺りを見渡し、小さく息を吐く。
「…腕がつらいなら、セシルと交代してもらう?私が背負えるなら、背負うんだけど…余計時間がかかってしまいそうだし…。」
そのため息を傷がつらいからだと勘違いしたローザがそう言うと、カインはゆるゆると首を横に振った。
「いや…月は空気があまりよくないなと思っただけだ。これじゃ、良くなるものも良くならないかもしれないな…。」
緑がないせいなのか、自分達の住む星より数段凶悪な魔物達が住み着いているからなのか、月の空気…外や中心地内部は空気が澱んでいるような気がする。
カインは暫く思案し、ある提案をローザに持ちかけた。
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