■ S H O R T S T O R Y ■
□何度でも君を思い、何度でも君を愛す。
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「もう散っちゃった。ほんとあっけない」
僕は夜に家を抜け出してタコ公園に来ていた。
つい先日まで満開だったのに今となっては花びら一つもない桜を、ブランコに乗りながら見上げていた。
「っ、りっちゃんこんなところにいた!夜にこんなところにいたら危ないでしょ?」
そっくりそのままの言葉を君に返します。
息を切らして僕の前に現れたのは、小さい頃からの幼なじみの彼女。急にいなくなったと思ったら、名前ちゃんは10年ぶりにまた急に現れたんだ。
「もー、僕男なんだよ?そんな心配しなくていいって」
「…それはわかってるけど、やっぱり心配だもん。…隣、いいかな?」
世話好きでおせっかいなところは昔と全然変わってない。
名前ちゃんはそう言うと僕の隣のブランコに座った。
「りっちゃん、ここで何してたの?」
「桜、見てた」
「もう花咲いてないのに?」
「うん。だってかわいそうだから」
桜の花が咲くと人々はもてはやし、桜の花が散ると人々は忘れ去ったように見向きもしなくなる。
「桜の花が咲いてなくても、桜はずっと桜だよ?」
「……りっちゃんは優しいね」
「優しい?よく変わってるとは言われるけど。僕AB型だし」
「りっちゃんは優しいよ」
「…………」
やりづらいな。『優しい』なんて言われたことないよ。
「りっちゃん、私がここに戻ってきたとき、すぐ私だってわかってくれたよね?ハルくんもそうだったけど、ハルくんは昔からしっかりしてたもんね」
名前ちゃんは寂しそうに笑う。
「でもりっちゃんは一番ちっちゃかったのにそれでも私のことちゃんと覚えていてくれて、私うれしかったんだよ」
忘れる訳ないよ。理由は簡単さ。
「散った桜のことも忘れない優しいりっちゃんだもんね。今も昔も全然変わってない優しいりっちゃんだ!」
変わってないのは君の方だ。その笑顔に、僕は何度救われたかわからないんだよ。
「……名前ちゃん。もう、いなくならないでね」
「え??」
「…まあ、またいなくなったとしても僕は忘れないけどね。この桜みたいに、咲いてないときでも、ずっとずっと見てるから。ずっとずっと、心の中で思ってるから」
僕は10年間待ってたんだ。そこらへんの男とは違うよ。
「……大丈夫だよ、そんな心配しなくても。私…ずっとりっちゃんのそばにいるから」
そんな可愛い顔されたらもう離したくなくなる。もうどうなっても知らないから。
「ねぇ名前ちゃん、ちゅうしてもいい?」
何度でも君を思い、
何度でも君を愛す。
〜 Rihito's story 〜
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