本棚
□背中を押してあげるから
1ページ/1ページ
『テツ!!ナイスパス!!』
━━━━
目が覚めると先ほどの声が夢の中の声だと気づく。
「夢…」
ゆっくり体を起こして自分の手を見る。幾度となく彼のために、自分のためにパスをしてきた手は、今は新しい光と、自分のためにパスをしている。
青峰くんは今頃どんな生活をしてるんだろうか。部活をサボって、アイス食べて1人で帰ってるんだろうか。それとも屋上で寝てるんだろうか。
屋上で寝ている姿は容易に想像できて、思わず笑ってしまう。
笑った瞬間、胸が痛くなる。喪失感で息が苦しくなる。
「あ、おみねくん」
涙が目に溜まる。
もし君がこのまま1人でバスケをしていたら、僕の進むべき道が断たれるのは時間の問題だろう。なら断たれる前に僕は君のために強くならなきゃいけない。
ここまで考えて
早く強くなりたい。と考える反面、僕がこんなに彼のことを考える必要がどこにあるのか。という疑問も生まれた。
彼が振り返るなんて保証はない。もしかしたらもう手遅れかもしれない。
手を握りしめる。もう一度でも拒否されたら…僕は僕でいられなくなる。
もう…考えなくていいんだ。考えたって無駄なんだ。火神くんは青峰くんのことはゆっくり忘れればいいと言ってくれた。火神くんは僕のために動いてくれる。それがとても嬉しいんだ。今が幸せなんだ。
…嘘。
幸せだなんて嘘だ。
忘れようとすれば
あの声が聞こえる。
『テツー、これからはテツからのパスで俺がシュート決められたら、こうやって手、軽くぶつけよーぜ!!2人で取った点なんだから、なっ!!』
昔の彼が僕のバスケを作ってくれたのだから。
光のもとで生きるバスケを。
僕は、これからも遠く離れてしまった君の後ろにできる細い影の中で、生きていきたいんだ。
だから
バスケが好きなころの君が歩いていた、明るい道に戻すために僕が背中を押してあげるんで、ちょっと待ってください。それ以上暗い道に進まないでください。
(また…パスしますから受け取ってください)
.