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□おつかれ
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「おぃ、青峰…」
試合後のロッカールームで疲れ果てている背中に話しかける。
「あ?若松サン?」
そいつは振り返らずにそう答えた。
「今の試合、危なかったな。だから部活こいっていってんだろ」
別にからかうつもりはなかったのに、口から出たのはちょっとした嫌味だった。
「…」
うるせぇと返ってくると思ったが、返ってきたのは沈黙だった。
その時の青峰の後ろ姿は見てられなかった。後ろ姿だがどんな顔をしてるか、なんとなくわかった。確かに勝負に青峰は勝った。けど接戦だった。見てたこっちはヒヤヒヤした。
「青峰…」
「かっこわりぃよ、俺」
話を切り出そうとすると青峰の台詞に妨げられる。
「黄瀬にあんなに手こずるなんて、馬鹿みてぇ。何よりあんな大口叩いといて、この様だ。言いたい事あんなら今のうち言っとけよ」
本当はただお疲れと言いたかっただけなのに。なんで俺はいつもコイツに嫌味しか言えねぇんだろうな。
それに青峰と比べたら俺はなにもしてねぇ。なのにコイツに何を言える?
「青峰」
後ろから青峰を抱きしめれば、青峰は少しビクッとした。
「はっ、若松サンに殴られるかと思った」
「何で殴んだよ」
「若松サンだしな」
青峰はいつもどおりで
だけどまだ弱々しかった。
「青峰、俺の方こそわりぃ。俺がもっとお前をフォローできたら良かったよな」
「…」
「わりぃ」
そう言えば呆れるようにため息をつき、笑みを作りながら言う。
「…俺は試合中は独りでいい。頼らねぇ、それが俺のスタイルだ」
確かに今回は、それによって青峰は勝ったのだ。だから本当と言えば本当なんだが、少し心が痛かった。
「…んな事言うなよ。」
すると青峰は俺から一度離れこっちを向いた。
「だから」
俺の目を見て青峰は言った。
「試合終わったら、そばにいてよ、若松サン」
笑いきれてない青峰の顔に、俺は前からきつく抱きしめた。
「大輝、おつかれ」
そう言えば、背中に青峰の手が回った。
おまけ→