小さな本棚

□卯の花月
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匂い立つ風




花びらが舞う




世はもう春だ




「今年も桜が見事に咲いたな」

「あぁ、立派なもんだ」


家主の覇と、その弟の六は縁側に腰掛けて庭に立つ枝垂れ桜を眺める。
樹齢何百年の老樹だった。

「それにしても今年は良い花付きだ。なぁ兄貴」
「それはそうだろう。ジャックが世話をしてくれたからね」

六が手にした盃に桜の花びらが浮かぶ。


「あいつ、本当に花が好きだな」

「そうだ六道、今度あの桜の隣に空木を植えようと思うんだが」
「空木をか?」
「綺麗な卯の花が咲くぞ」
「成る程、あいつによく似合うな」








***


サワサワサワ…
朝日の差し込む庭に静かな水音。

日の光に反射して、滴はキラキラと煌めく。
いつものようにホースで草木に水を撒いていた。
そんなジャックのもとに覇はニコニコとしてあるものを差し出した。

「ジャックこれを植えるの手伝ってくれないか?」

覇が手にしているのは10cmくらいの植木鉢。小さな苗だ。

「…苗か?」
「これはね、君の苗だよ」
「…オレの?」
「だから大事に育ててくれるかい」

「…うん」










桜が散る頃に、愛らしい白い花が咲く。卯月はもう間近。





終.

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