小さな本棚

□Gaura-other colers-
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素早く繰り出す拳が弾き返される

138戦目、さっきから倒されてばかりだ


「はっ」

「ふっ」


クロは強い、決して勝てない相手ではないけど、隙がない

ぐっと詰め寄って誘い込む


「踏み込み浅いって」

「あっ……」


―ドサッ

「これで98勝♪」

「……」


悔しい、あと2勝されたら終わり

余裕ぶってるその顔に一発お見舞いする

「……っ」

「あぶっ」


避けられた、あたる訳はないと思ったけど

フェイントと本命を織り交ぜて、時には一歩退いて突いていく

瞬発性ではオレの方が上だけど、クロは力が強い

相手を崩して一気に叩き込み、仕留める

堂々として勇ましい戦い方


「そらっ!」

「ぐっ」


まただ、地面の感触


「残念でした〜、99勝」


ズンと伸し掛る重み

クロの顔が近くて、なんか恥ずかしかった


「……んぅ」

「はっ//」


逆光が眩しくて、少し顔を反らせたら、どういう訳かクロに大きな隙が出来た

そこを逃さず伸し掛る腹を蹴りだす


「っうぐ!?」

「……41勝」


やっと地面に伏したクロを見下ろす


「くっそー、卑怯だ!」

「……何が?」


勝手に隙を作ったのはそっちなのに


「随分息あがってんじゃねえの?」


互いに荒い息で肩が上下してる


「……クロも、ね」


クロは持久力には自信がない

もう少し粘ればガードを突き破れそうだけど

それはクロも同じ考え


「もう降参したら?俺の勝ち確定だろ」


「……どうだか」


やっぱり、ばてる前に決める気だ

だけど、いくらオレだって今回は引きたくない


「どーしても勝ちたいってんなら、もっと本気出せよ」

「……」


"本気"

エルフのことか

クロは引き際を知らないし、見た通り負けず嫌い

エルフを起こしたら今度こそ……


「……エルフは、起こさない」


それに、自分自身の力で勝負を着けたい

身体の芯から沸き上がる熱に耐えて一瞬遠のきそうだった意識を覚醒させる

「そいつは残念っ」

「っ!?」


一気に間合いを詰められた

蹴りを受け止めて十分に間合いを取り直す

さっきから熱っぽさが治まらない

エルフが戦いたがってる……

前に、起こしてしまったことがあった

クロを危うく殺しかけた

あの時よりは随分意識を保てるようになったけど、水を差されたくない





「よっしゃ!100っと」

「……」


結局、今回も負け

わざとエルフの話を出したのか

長期戦ならオレが優勢になるから

ちょっと腹が立った

出された腕を取ると引っ張り上げられて一気に距離が近づいた


そのまま額にキスされた

なんか、苛立ってた気持ちがどこかへいってしまった

ほんとオレ、甘いかも


「あー、汗かいたな。シャワー浴びようぜ、一緒に!」


「……一人で、いいだろ」


「二人いっぺんの方が手間が少ない!」


クロの思考は時々意味が分からない

と、急に身体が浮いた


「お?暴れねぇの?」

「……」



有無を言わさず肩に担がれたときにはもう面倒くさくなった



「今度はエルフと戦わせろよ」


人の気も知らないで


「……死にたいなら、な」

「俺を舐めるなよ?」

「……死にかけたくせに」

「一度死んだやつに言われたかないっての」



そんなの、エルフを倒す為には仕方なかった

アンタがオレでもそうしただろ


「……何、ニヤニヤしてんの」

「お前ほんっとに可愛いなって思って」


アンタはほんとにバカだ

でも、アンタの能天気さに救われる


「……バカ」


背中を殴ってやった

死角でよかった

どんな顔してるのか、自分でも知りたくない





終.


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