小さな本棚

□六月九日
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六月九日

今日はやけに人が訪れては、六に何かを言っていた。時には何かを渡す者もいた。




「……タンジョウビ?」


聞き慣れない単語にジャックは首を傾げた。


「なんだ、知らないのか?」

「……」


ジャックは六の問に少し悩んだ。
言葉通りの意味であれば、誕生した日だ。
それは理解出来る。

だが、何の?
そしてそれにどんな意味が?

ジャックの頭上にはますますハテナが浮かんだ。

「生まれた日をな、祝うんだ」

「……なんで?」

「それは…めでたい事だからだ」

「……」


何かを考え込むようにして、そのまま黙ってしまったジャックに、六は困ったような顔をした。

六を困らせるつもりなんてなかった。
ただ、生まれた日を祝う事がよく分からなくて。

そもそもが、出生の曖昧なジャックにとってはまさに無意味で理解不能だった。


「例えばそうだな…俺もお前も生まれてこなければこうして出会う事もなかった、だろ?」

「……うん」

「だから生まれてきてくれてありがとう、と言う気持ちを込めるんだろうな」

「……生まれてきてくれて、ありがとう…?」


六の言葉をゆっくりと復唱するジャック。


生まれた事に感謝して、いいの?

オレ達はイレギュラーな物質だ…
ヴィルヘルムも言っていた。

"本来ならば存在するはずの無い命"

それでも、生きて良いと言ってくれたのは何故だろうか。

むしろ、生きていくべきはエルフだったのに。
こうして、彼の生きた全てを継承して自分達が生きていくよりも…


「……あっ」


その時、ジャックはふと思った。

浮かない顔で俯いていたジャックを、心配そうに見ていた六は、急に目線があって少し驚いた。


「……それなら、オレは、エルフに言いたい」


エルフが存在したからこそ、ジャックは、クロウはここにいる。


「そう、想える相手がいるのは良いことだな」


六はエルフと言う人物の事はよく知らない。
彼らもあまり話さないから。いつだか、クロウが兄弟みたいなものだと言っていたか。
しかし、彼らにとっては恐らく、肉親よりももっと深く複雑な想いと繋がりを持っているのだろうと感じとっていた。


「……あと、」


ジャックは再び俯き、小さな声で控え目に囁いた。


「……アンタにも、言いたい、かも」


六は一瞬目を見開いた。
なるほど、俯いているのは照れ隠しか、白銀の髪の間から見える頬は僅かに朱に染まっている。


「そうか、それは嬉しいな、ジャック」

「……」


素直に喜んで見せれば、ジャックはプイとそっぽを向いた。

それがあまりに愛らしくて、六はジャックの髪をわしわしと撫で回した。
癖のある柔らかい毛が指に絡み付いて気持ちがいい。


「……六、ありがとう」

「嗚呼、ありがとう」


なんだか、改まって言うと気恥ずかしいものがあり、二人ははにかんだ。








後日、ヴィルヘルムに確認したところによると彼ら(エルフ)の誕生日は、こちらの世界の基準に合わせると、六と僅か3日違いであることがわかり、今度の誕生日は一緒に祝おうと約束をした。




終.


*あとがき

六さん誕生日おめでとう。
ちなみにジャック、クロウ(2P)、エルフ(寺ジャク)は同じ誕生日
6月66日とか祝えねぇw
と笑っちゃいましたが、実際は12日にお祝いあったので良かった良かった。





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