小さな本棚

□通り雨
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雨が、降り始めた。




降り始めなのに、大粒で強い。


「……」

ジャックは灰色の空を見上げる。
大粒の雨が顔を叩く。

ぼたりぼたり、体を伝って雫は地面に滴り落ち、服は水分を含んで重くなる。

「……」

いまさら雨宿りなどする気もなく、ただただ、厚い雲が覆う広い空を見上げていた。

雨の音以外にはなにも聞こえない。


いや、耳を澄ませば違う音が聞こえる。

―カラン、コロン

水しぶきとともに鳴る、下駄の音。

―カラン、コロン

近づいてくる。

「……」

ジャックは音のする方へ視線を下ろした。

番傘をさした男がいた。

男はジャックの目の前まで来て、ジャックを傘の中に入れる。
雨音はくぐもって、男の顔がはっきり見えた。
男は言った。

「何してる、風邪を引くだろ」
「…六」

静かな会話。
傘の持ち主は六だった。

「早く帰ろう」
「……」

手を差し出した六に、ジャックは一歩身を引いた。
再び大粒の雨が当たる。

「どうした?」
「…濡れる」

ジャックはもうずぶ濡れだ。二人で傘に入ればもちろん六も濡れてしまう。



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