Prelude

□Prelude〜カゼリア〜
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暗く湿った空気の中、小さな窓がカタカタと音をたてて震える。
蝋の溶ける匂いが鼻をつき、風音は寝返りを打った。
いつもと違う空気が体にまとわりつき、不快感だけが残る。

何?何が違うの…?
ここは…何処?
私は、私は…?

暗闇の中、小さく見える後ろ姿に、風音は気付き、大声で呼びかける。
その声は大渦に飲み込まれ、その人物はもちろん、風音自身にも聞こえなかった。
声が出ていない事に気付き、喉に軽く手をあてる。
走り寄ろうにも、その人影は風音と同じスピードで離れて行く。

待って、待ってよ!
先輩!要ちゃん!!



風音は天井を手で仰ぎ、大きく目を見開いた。
手のひらを目の前で握ったり開いたりしてみる。
「夢?」
上半身を起こし、両手で顔を覆い呟く。

何処までが夢?
全部夢だったの?
ふられた事、裏切られた事、あの少年に会った事…。
そうだ、私は風に飲み込まれて…。

「よお、気付いたようだな。」
突然の声に風音は顔を上げた。
ドアにもたれる様に立っている青年は、口の端を持ち上げ笑いかける。
「誰?!」
「これは失礼、お嬢さん。オレはあんたのお守り役になったリヴだ。っま、仲良くしてくれ。」
言葉に節をつけながら、オーバーリアクションで自己紹介する彼を、風音は訝しげに見つめた。
リヴはどこから見ても軽い人というイメージで、信用しろと言う方が無理であろう。
容姿はというと、黒髪、黒眼、前髪は長く切れ長の眼を隠している。そして、肩したまで伸びた後ろ髪を一つに結んでいた。
整った顔立ちだが、口調が三枚目を物語っていた。
「ヴァルが女の子連れて帰って来たって聞いて、すんげぇ驚いた。あんたはラッキーガールさ。」
リヴはどこか秘密を打ち明ける子供のように、言葉を切った。
少し息をついてから、風音の眼を真っ直ぐ見つめ口を開く。
「この世界の人間じゃない少女で、この国の奴に拾われたんだからな。」
「え?」
寝起きの頭では全てを理解する事が困難で、風音は聞き返す。



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