Prelude
□Prelude〜悲しみ〜
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ヴァルジェが城に辿り着いた時、暗い空気が漂っていた。
秘密の旅だったので、門番とも接触しないよう入ったが、何かがあったと察しがついた。
いつもの活気が全く見られない。
夜だからではない。夜でも遅くまで男は酒を飲み、女は会話を楽しんでいる。
しかし今夜は違った。
自然と急ぎ足となり、ジル王の部屋へ向かう。
そして、意を決しドアをノックした。
「失礼致します。」
中に入ったヴァルジェを迎えてくれたのは、悲しみにくれる二人の眼だった。
ジル王は深いため息をつくと、ヴァルジェを見つめた。
その隣ではオズが俯き、跪いている。
「父上、何も言わず旅に出たことはお許し下さい。」
「お前が旅立つ事は分かっていた。無事に帰って来た事を嬉しく思う。」
「ありがとうございます。」
形式的なあいさつを述べた後、ヴァルジェは部屋内を見回した。
「母上の姿が見えないようですが。」
「…ソフィアは自室で床についておる。」
「…お身体でも?!」
「いや、心配する程ではない。」
「ですが、こんな事初めてではないですか?あいさつだけでも…。」
ヴァルジェの言葉に、王は右手で顔を覆った。
「疲れているだけだ。私も疲れた。すまないが、席を外してもらいたい。」
ジルの弱々しい言葉に、ヴァルジェは正直驚いた。
何があってもどんと構えているジル王…、父親のこんな姿を見たことが初めてだったからだ。
ヴァルジェとオズは王の言葉に従い、部屋を後にした。
「オズ、何があった?」
オズは苦渋の表情でヴァルジェを見つめ返した。
「言え、何があったんだ!」
旅の疲れと分からぬ不安がヴァルジェの怒りとなり、珍しく声を荒げさせた。
「…オズの口から申して良いものか…。」
「良い。俺が聞きたいのだ。言ってくれ。」
オズは顔を背けると、閉口した。
何か言いかねているのは一目瞭然である。
父王の態度も核心を避けているようだった。
「オズ!」
「……。」
思い悩むオズを見下ろし、ヴァルジェは両の拳に力を入れる。
「…分かった、もう良い。」