Prelude〜番外編〜

□キュアリーの恋
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それは、風音が要約カゼリアに慣れてきた時の事だった。

「カザネ様、これなんだと思います?」
「え?」
自室で身支度を整えていると、神妙な顔のキュアリーが訊ねてきた。
その手には綺麗な細工の腕輪が握られている。
「何って、腕輪?細めだから女性物かな?」
「やっぱりそう思います!?」
噛み付かんばかりにキュアリーは身を乗り出した。
こんなに取り乱す彼女は珍しく、風音は次の言葉を待った。
「実は、リヴが持っていたんです。」
「リヴが?へぇ、誰かへのプレゼントかな?」
「というか、誰かの持ち物だと思いませんか?」
「それを何処から持って来たの?」
「リヴの部屋の掃除をしてて、発見してしまったんです。私動転してついつい持って来てしまって…。」
「それってまずいんじゃないの?」
彼女の涙目を見ながら、風音は天を仰いだ。
確かに最近のリヴの行動は不振でキュアリーが疑う気持ちも分からなくはない。
町中を知らない女性と歩いていたという噂もたっていた。
「だって、今まで女の影などなかったんですよ!」
「それでキュアリーは焦ってるってわけね。」
「焦ってなんて…。」
「だって、リヴが好きなんでしょう?」
「そんな事ないです!変な事言わないで下さい!」
真っ赤な顔で必死に否定するキュアリーを、風音は可愛いと思った。
それは確実に“恋する乙女”の顔をしていたから。
「それでキュアリーはどうしたいの?」
「どうしたいって言われても…。」
シドロモドロになる彼女を見ながら、風音は笑みがこぼれた。
「分かった。私が探りを入れてみる。その女の影を捕らえてみせる!」
風音は「任せなさい」と胸を叩いた。



「とは言ったものの、何処から攻めるべきか…。」
風音は壁に背をつけ、広場を覗き込んだ。
そこには剣の鍛錬に励むヴァルジェとリヴの姿があった。
いつもは三枚目のリヴも、真剣な眼差しで剣技に取り組む姿は風音でさえ格好良いと思えた。
その彼に彼女の一人や二人いても不思議ではないと。

「止め!」
オズの声に、風音は身を潜めたまま二人を伺った。
二人は息を整えると、タオルで汗を拭く。
どう声を掛けようかと考えあぐねていると、上目遣いのヴァルジェと視線があった。

やばっ。これじゃあ覗きをしてるみたいじゃない!

「あれ?嬢ちゃん。」
ヴァルジェの視線に気付いたのか、リヴも風音の存在に気付き声をかけた。
「えっと、お疲れ様。頑張ってるね!」
「どうしたんだよ。熱い視線を感じたけど。」
ニヤニヤ笑いながら近寄るリヴに、相変わらず軽いなぁと思いながら風音は笑みを返した。
「そこを通りかかっただけだから。そうそう、ヴァルに聞きたい事があって!」
「俺?」
自分に話がふられると思わなかったのか、ヴァルジェは目を丸くし顔を上げた。
「ちぇっ。いっつもモテるのは王子様だよなぁ。」
「そんなんじゃないから。」
茶化す彼に顔をしかめる。
リヴは「はいはい。」と後ろ手に振ると、その場を離れていった。
「俺に訊きたい事とは何だ?」
「えっと、リヴの事なんだけど…。」
どう切り出したら良いか頭を整理しながら言葉を紡ぐ。
下手な事を言って誤解を招きたくない。
「最近リヴの様子がおかしくない?」
「おかしい?俺は気付かなかったが。」
「例えば、誰か特定な人がいるとか?」
「それは最近の噂の事を言っているのか?」
ヴァルジェは驚いた表情を浮かべた。
「カザネが気にするとは思わなかったが、そのような者がいてもおかしくはないんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけど…誰なのか気になるというか、いると困るというか…。」
「お前はリヴが好きな
「違う、違うの!」

うわっ。思いっきり誤解を招いている。

「心配なら直接本人に聞いてみれば…。」
「聞けたら苦労しないんだけどね。って、ヴァル隠れて!」
風音はヴァルジェの腕を引っ張ると、壁側へ押し付けた。
向こうから噂の主が歩いてきたのだ。
しかも女性付きで。
風音は耳を澄ませると、チラリとあちらを伺った。
何を話しているかは全く聞こえない。
しかし、その雰囲気は実に親しげだった。
笑いながら二人は通り過ぎると、風音は大きく息を吐いた。
「この前の娘とは違うな。」
「何?何か知っているの!?」
意味深なヴァルジェの呟きに、風音は食ってかかる。
「知ってはいないが、この間は髪の短い娘と歩いていたから。」
先程の女性は長い黒髪をしている。
色んな女性の噂は、ただの噂ではなさそうだった。
「お前も苦労するな。」
哀れむ声に顔を勢い良く向ける。
「違うってば!」
抵抗虚しく、ヴァルジェの中の“リヴ好き説”は崩れる事がなかった。




 
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