頂き物
□バレンタインにはやっぱりチョコが欲しいって思うのは男のサガ
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「月詠、これ持って行きな。」
月詠は日輪から渡されたあるものに首を傾げた。
「どう使うかは、あんた次第だよ。」
日輪は、そう言ってふふふと笑った。
月詠は困った顔で日輪を見たが、それ以上どうしようもなくて、それを懐にしまった。
『バレンタインにはやっぱりチョコが欲しいって思うのは男のサガ』
雪の降る夜、万事屋の前に月詠の姿があった。
ピンポーン
「あ?誰だ?こんな時間に。」
銀時はコタツで寛いでいたときに鳴らされたインターホンに少しイラっとして、しかめっ面をした。
今夜はお妙の家に泊まりに行くと言って神楽もいない。
仕方なく、銀時は半纏を着て玄関に向かった。
めんどくさそうに引き戸をガラッと開けると、予想外の人物が立っていて銀時は目を見開いた。
「月詠・・・・どうした?こんな時間に。」
雪の中というのに傘もささずに来たのか、月詠は頭や肩に雪をくっ付けたままだった。
「寒ぃだろ。早く入れよ。」
銀時は月詠を促したが、彼女は入ろうとせず代わりに大きな風呂敷を両手で突き出した。
「いや、ここでよい。これを届けに来ただけじゃ。」
「は?」
銀時は突き出された風呂敷包みを反射的に受け取った。
「なんだ?これ?」
銀時は雪に濡れないようにしっかり結ばれた風呂敷の形を確認するようにペタペタと触った。
「ああ、その・・・チョコじゃ。今日はばれんたいんとやらの日なのじゃろう?吉原の女たちからぬしらへ。何度も吉原を救ってもらった礼じゃと。感謝を表したいそうじゃ。」
月詠はウロウロと視線をさ迷わせて言った。
「これ全部チョコか!?スゲーなぁ!パフェ食うの10日くらい我慢できそうだな、こりゃ。」
銀時は糖分の固まりを手に入れて満足気にニヤニヤと笑った。
「10日しか我慢できんのか。」
月詠は呆れた視線を銀時に向けた。
「いやいや、銀さんが10日我慢できるなんて奇跡だからね〜。」
銀時は上機嫌に風呂敷を抱えると、月詠に片手を差し出した。
「ん。」
月詠は銀時の差し出した手を凝視し、ニヤニヤと笑う彼の真意に気づいて狼狽えた。
「な、なんじゃ?」
「月詠のチョコは?ちょーだい♪」
銀時はイタズラが大好きな子供のような顔で要求した。
「そ、そんなもの、ありんせん!」
月詠は素っ気なく顔を背けた。
「ええ〜!そりゃないでしょ月詠ちゃん。」
銀時はわざとらしく肩を落とした。
「月詠から愛のこもったチョコがないなんて、銀さん傷つくわぁ・・・。」
「あ、いや、その・・・・」
月詠はしどろもどろになって俯いた。
本当は、用意しようと思ったのだ。
しかしこの遊女達のチョコの山を見てしまうと、この中に埋もれてしまうのではないかと思ってしまって、用意する気になれなかった。
「す、すまぬ。本当は、用意しようと思ったんじゃが・・・できんかった。すまぬ。」
月詠はそう言って俯いた。
そして、彼女の頭の中に、来る前に懐にしまったあるものが浮かんだ。
(あ・・・・・)
月詠はどうしようか少し悩んだが、「そっかぁ〜、ねぇのか〜」と悲しそうな顔をする銀時をチラッと見ると、意を決してそれを懐から取り出した。