頂き物
□桜と君に惑う夜
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「てーかさ、オレたち最近忙しかったせいでデートもままなんなかったんだよ?そんでこーんなムード満点のとこで久々に逢ってんだからさ、もちっとこうさ、それに感応しての甘ったる〜ィスートトークばんばん交わしてもよくね?」
「例えばどんな」
きょとんとしながら月詠が問うた。
「どんなっつってもさー!そーゆーのは雰囲気でしょーよ!『今日は桜がキレイねー』とか『いやお前の方がキレイだよ』とかさー!そんでそっからイイ感じになって盛り上がってくっつーのが目て…いやいやラブリィ〜な恋人同士としちゃァ自然な流れであってだな!」
拳に力を込めて力説する銀時とは裏腹に
「ふむ、そういうものなのか。すまんかった、今度から気をつける」
まるで生徒のように生真面目に答えられて、あーっもう!と己の頭を掻き毟る。そしてふうーっと大きく息をつき、肩の力を抜いた。
「…ま、いいや。つーかオメー、夜桜見るのって初めてなの?」
「ああ。吉原へ来る客や妓たちから聞いてはいたがな。自分の眼で見るのは初めてじゃ。それにしてもこれほどまでに美しいとは…」
そう言いながら、再度うっとりした視線を墨染めの空に浮かぶ白桃色の雲の群れへと向けた。
月詠の尖った顎の線に添って月光が落ちている。
その横顔は、銀時の腕の中でとろけるあの瞬間にも似て。
月詠は気付いているのだろうか。
今瞳は別のもの―つまり銀時以外の何かに陶酔しきっているのだということを。
(…気にいらねェ)
恋人が己以外の何かに夢中になってるだなんて。
自分で誘っておきながら、桜にばかり意識を向けている恋人が許せないだとはこの男、嫉妬心もハンパ無い。
銀時はふいに月詠の手を離してみた。
だが女は全然気付きもせず、ひたすら「凄いのう」と目の前の景色に感嘆している。
それがまた気に食わなくて、このままここで押し倒してやろうかとも思ったがそれはさすがにマズイだろうと思いなおした。
(第一ンなことしたらクナイで突き刺されるどころか、マジであの世行きの直行便に乗せられちまうぜ)
と、急に何事かが男の脳裏に閃いた。
にやりと口先だけで笑い、女が宙を見上げている間にすっと気配を消し、そのまま木々の間へと身体を滑り込ませる。
まあ要するにかくれんぼだ。
いつ月詠が気付いて、驚き慌てて自分を探すかと思うだけで銀時の心は躍った。
大人気ないと思わぬでもないが、銀時の心情からすればせっかく自分と一緒にいるのに捨て置く月詠の方が悪いということになる。
闇に潜んで相手の動向をうかがっている間に、いくばくかの時間が過ぎた。